第180話 二つ消えて

封印の遺跡の近くにはフガクと同じくらいの大きさのライドキャリアが停泊しているのが見えた。そのライドキャリアも、俺たちの接近に気付いたのか、周りで展開していた十数機の魔動機が慌ただしく動き出す。


「勇太、あのライドキャリア、エリシア帝国の所属みたいだよ」

アリュナが何かの目印を見て、そう告げる。

「エリシアってエミナの国だよな、まいったな、このまま戦っていいのかな」

「エミナの母国だろうが巨獣の封印をみすみす解かせるわけにはいないでしょう、ここは倒しても止めないと」

「確かにそうだな、エミナもその辺は理解してくれるよな」


少しの迷いはあったが、やはり巨獣の封印の解除の阻止を優先するべく、俺たちは目の前の敵を討つ決断をした。


敵の魔動機のライダーは、よほど自分の力に自信があるのかバラバラに単騎でこちらに突撃してくる。最初に俺の前に来て、剣で攻撃してきた敵機を容赦なくエストックで貫き倒す。頭部と胸を貫かれたその敵機はその場で崩れ倒れた。


右から近づいて来た敵機は、アリュナの双剣の餌食になる。首と右腕を同時に斬り飛ばされ、糸の切れた操り人形のように力なく倒れる。

さらに接近してきた二体の敵機の突進を、ナナミが盾を構えて止める。その敵を俺とアリュナが同時に横から突き倒した。


いきなり四体の味方を倒され、過信していた敵の動きが変わった。こちらに無意味に近づいてこず、距離を取って様子をみている。


「貴様たちは何者だ! こちらがエリシア帝国の調査隊だと知っての狼藉か!」


外部出力音で相手がこちらに警告を発する。よく言うよな、攻撃してきたのはそっちじゃないか。まあ、たしかに敵意はこちらにもあったけど。


「エリシア帝国だろうがなんだろうが、巨獣の封印を解いてる連中に狼藉もなにもあったもんじゃないでしょう!」

アリュナが不快感剥き出しで相手にそう言い返す。


「ふっ、巨獣の封印の事を知ってるとは……残念だがお前たちには死んでもらう必要があるようだ」

「やれるものならやってみな、ここに倒れてる連中と同じ程度の実力じゃ、無理だと思うけど」

「安心しろ、ここからは全力でいかせてもらう!」


どうやらさっきまでは全力ではなかったようだ。敵機の集団から、同型の二機の魔導機がゆっくり前に出てくる。たしかに雰囲気は他の魔導機とは一味違った感じはあった。


二機の魔導機が間合いを詰めてくる。それに合わせて、他の魔導機も俺たち三人を取り囲むように動き始めた。


二機のうちの一機、三又の槍を持っている敵がアリュナのベルシーアに鋭い突きを繰り出す。アリュナは槍を突き上げるように跳ね返す。そして双剣のもう一本で横に薙いで攻撃をする。剣は敵機の胸をかすって、ボディーの一部を削り取る。


それと同時に両手剣を持つ敵機が大きく剣を振り上げ、俺に斬りかかってきた。それを左手に持ったマインゴーシュで受け止める。そのまま隙のできた敵機に、エストックで致命傷を狙って腹部に攻撃するが寸前で避けられ、エストックは敵機の肩を貫く。


包囲してきた敵機はナナミが牽制する。剣と盾を使って、複数機の敵を翻弄していた。敵も弱くはないのだろうけど、苦戦する気配はなかった。


「ぐっ、お前ら、本当に何者だ! ハイランダー以上のこの調査隊相手に……」

ハイランダー以上ね……圧倒しておいて言うのはなんだけど、確かに並の敵ではないなと感じていた。


「エンリケ! 残念だけど、この敵は強い! 撤退しないと全滅するわよ!」

「チッ……くそ、しかし、そろそろ封印が解かれるはずだ、それまでは持ち堪えるんだ!」


敵は勢いなのか外部出力音で会話を続ける。それにより、今まさに封印の解除中だという事がわかった。

「アリュナ、ヤバイ、もう封印の解除中みたいだ」

「みたいだね、ここは急いで片付けるしかないようね」


アリュナの言うように敵を倒して巨獣の封印の解除を阻止しにいく必要がある。俺たちは急いで敵の殲滅に動く。ナナミが敵の一機を撃破して、アリュナが二機を切り刻む。そして俺が一機を倒して、さらに三又の槍を持つ魔導機のその槍を腕ごと切り飛ばした。


残った敵機も倒そうと敵に迫ったが、敵のリーダー的な男が、喜びの声をあげた。

「ハハハハハッ! ここの封印も解かれたようだぞ! もうお前らの相手をしている必要もない! 撤退するぞ!」


その男の言葉を証明するかのように、遺跡の雰囲気が一気に変わったのを感じた。これで二つ目……残りの封印は一つになってしまった。

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