第178話 人無き者/結衣

白いガーディアンはあれほどの量の瓦礫の下敷きになったにもかかわらず、ほとんどダメージを受けていないようだった。


すでに白いガーディアン以外の通常のガーディアンは全て倒したようで、今、私の前にいるのはその強敵だけだ。私と白いガーディアンはしばらく睨み合い、どちらからともなく動いた。


ガーディアンの牙が私の肩に掠る、それだけで肩の部品が引きちぎれて吹き飛ぶ。私のレイピアの攻撃もガーディアンの足を掠めた。だけど、まるでダメージを与えられなかったようで、平然としている。


ガーディアンは着時と同時に再度跳躍して、私の背中を狙って飛びかかってきた。私は前転でその攻撃を避けると、鎖分銅を投げて攻撃する。鎖分銅はガーディアンのいた地面を抉り取る。ガーディアンはすでに空中に飛び上がっていた。


空中で素早く動くことは不可能だろう、私はその機会を逃さなさい。渾身の力を込めて、レイピアで必殺の一撃を繰り出した。だが、ガーディアンは空中で体をうねらせて体勢を変えると、レイピアの攻撃をその牙で受け止めた。


本当にしぶとい……


ガーディアンはエルヴァラを足蹴りして、空中でくるくる回転して着地した。足蹴りの反動で後ろに転倒する。転倒と同時に、素早く動き、ガーディアンはエルヴァラに覆いかぶさるように上にのってきた。そしてあろうことか私のいるコックピットにかじりついてくる。


「やっ、やめて!」

ギギギッと嫌な音が響いて、外の景色を映し出している前面のモニターが、バチバチと音を立ててひび割れていく。


もうダメだ……私、こんなところで死んじゃうの……


バキッと大きな音をがして、ハッチが喰いちぎられた。ガーディアンは喰いちぎったハッチをペッと横に吐き出し、ジッと私を見つめる。


なっ、何……私にとどめを刺す気はないの?


しばらく私を見つめるが、ガーディアンはそれ以上の行動に出ようとしない。その気になれば簡単に噛み殺せる状況なのに、なぜかそうしようとはしなかった。


「どうしたの? 私を殺さないの?!」


ずっと見つめられ、恐怖のあまり、思わずそう声をかけていた。少しの沈黙の後、驚くことにガーディアンが話しかけてくる。


「お前は女と言うものか……」

まさか喋るとは思ってなかったので驚いた。あまりにびっくりしていたのですぐに返事ができないでいると、催促するようにもう一度聞いてくる。

「答えよ! お前は女なのか?」

怒らせると、やばいと思い、慌てて答えた。

「はい、私は人間の女性です」


「女とは全てお前と同じ容姿をしているのか?」

「大まかには似ていますが、顔立ちや髪型、肌の色や骨格など、細かく見ると、皆違います」

「ならば、お前と同じ女は存在しないのだな」

「はい、私と全く同じ容姿の女性は存在しません」


何を答えてるのか途中で変な気持ちになったが、ガーディアンは私の答えに満足したのか、エルヴァラから降りて少し後ろに下がった。そしてこんなことを言い出した。


「お前を見ていると胸が熱くなるのだ……とんでもなく愛おしく思ってしまっている。この気持ち、どうすればいいのだ……教えてくれ、俺はお前に何をすればいいんだ」


びっくりしすぎて声も出ない……どうやらガーディアンが私に好意を持ってくれたようだ。まさかの言葉に、どう返事していいか困ってしまう。これまで、容姿に恵まれたせいか、この手の告白には慣れているけど、まさか人外からそんな言葉を聞くことは思っていなかった。


「貴方の気持ちは嬉しいですが、私は人の女です。その気持ちに応えることはできません」


告白にははっきりと答えるようにしていた。私にはずっと思いを寄せている人がいるから、思わせぶりな態度は逆に相手を傷つけると思っているからだ。


「ダメだ! ダメだ! ダメだぁ〜〜!! もう、どうにかなりそうだ! 構わぬ、お前が人間で、俺がガーディアンだろうが関係ない! 俺のものになれ人間の女!!」


「そんな強い言葉を言ってもダメです! それに私にはすでに思いのある男性がいます! ガーディアンでなかろうと関係なく貴方のものには絶対になりません!」


「ぐっ……どうしてもダメなのか?」

「はい、申し訳ありませんが、絶対にダメです!」

ガーディアンは項垂れた。かなり落ち込んでいるようだ。だけど情けをかけて優しくするのは逆によくないと思うので何も言わなかった。


するとガーディアンが何かを思いついたのか勢いよく顔をあげた。そしてこちらに近づいてくる。自分のものにならないならいっそう──そう考えても不思議はない、私は死を覚悟した。


「ならば、せめて……俺をお前のものにしてくれないだろうか」

「それはどう言う意味ですか?」

「我の主人になってくれ……人間の女よ……」


とんでもない提案だけど、それで彼の気が晴れるならと私はそれを了承した。

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