第176話 ルシファー

双子の見事な戦いに、アリュナも感心しているようだ。

「大したものね、ただ図体がでかいだけじゃなかったようね」

「いえ、大した事ありませんよ、あの魔導機を自由自在に操り戦う、姉さんや勇太さんほどじゃありませんよ」


聞いた話だと、双子のルーディア値は800と高くはないようで、その為に、強力な肉体を持ちながらどこに行っても待遇は良くなかったそうだ。同じように敵を倒しても、称賛されるのはルーディア値の高い魔導機乗りのライダーばかりで、一時は魔導機もライダーも大っ嫌いになったそうだ。だけど、嫌悪感から生まれた好奇心で、少しずつ魔導機に興味を持つようになり、やがて信じられないくら大好きになってたそうだ。そこで魔導機乗りになりたいと考えたそうだけど、ルーディア値800で乗れる魔導機などなく、ライダーは諦めるしかなかった。そこでライダーになることはできなくてもメカニックならと、無双鉄騎団に応募してきたようだ。


「俺たちゃ、無双鉄騎団が大好きになっちまったんですわ、メカニックとして受け入れてくれて本当に感謝してるんです」


二人とも嬉しそうにそう言ってくれる。今は凄く幸せそうで本当によかった。



小型ガーディアンを倒して先に進むと、会議室くらいの部屋に到着した。中央に何やらカプセルみたいな物が設置されているが、開かれて中には何もなかった。


「やはり、封印が解かれているようだね……」

ラフシャルは空っぽのカプセルを見つめながらそう言う。表情は強張り、かなりの緊張感を出していた。


「でも、まだ封印は二つもあるんだろ、誰が封印を解いてるかしれないけど、それを阻止すれば問題ないよな」

「確かにそうだ、せめて巨獣の復活だけは阻止しなければ……」

「せめてって、何が復活したんだい? 巨獣より恐ろしいものなのかい?」

アリュナが聞くと、ラフシャルは静かに話し始めた。


「僕の本当の名はメティス、大賢者ラフシャルの三人の弟子の一人だよ」

「えっ、ラフシャルはラフシャルじゃないのか?」

「大賢者ラフシャルは称号名なんだ、僕は弟子として正式にラフシャルの名を、師匠から引き継いだ……だけど、それをよく思わなかった人間がいた」

「他の弟子の一人か?」

「そう、兄弟子に妬まれ、僕は殺されかけた……いや、兄弟子は今でも僕を殺したと思っていると思う」

「なんだよ、まるでその兄弟子が生きてるような口ぶりだな、随分昔の話なんだろ?」


「……勇太、研究者が一番欲しいと思っているものが何かわかるかい?」

「えっ! う〜ん、研究に必要なお金とか……」

「いや、違う、それは時間だよ、研究する無限の時間、みな、それを欲しているんだ」

「確かにそうだな……」

「僕の師匠の大賢者ラフシャルは、弟子の僕たち三人に永遠の時間を手に入れろと言い残した。そして、それぞれの形で永遠の時間を手に入れたんだよ」


「興味深いね、三人とも違う形ってことかい?」

アリュナの問いに、ラフシャルは頷く。

「そう、僕はこの姿を見てもわかると思うけど、老化しない肉体を手に入れ、永遠の時間を手にした。もう一人の弟子は自分の自我意識を全てデータ化して、肉体を捨てた……そしてもう一人の、僕を殺そうとした兄弟子は、転生の呪法を選択した」

「転生……どういう意味なんだ?」

「死んでも、全ての意識と記憶を引き継いで、新しい命として生まれ変わるんだよ」


「そうか、それも永遠の時間って事になるな」

「しかし、転生の呪法は重大な欠陥があったんだ、その為に兄弟子は狂ってしまった……」

「狂ってどうなったんだ」

「死にたいと思ったんだよ、無性に死を望んだ」

「自殺したのか?」

「自殺してもすぐに転生して新しい命として生まれ変わる、狂った意識のままにね」

「うわっ、なんか凄い悪循環だな」


「そう、だから兄弟子は転生の呪法を解こうとした、だけどどうしてもそれができなかったんだよ」

「どうしようもないな……それでその兄弟子はどうなっちゃったんだ」

「転生の呪法で転生する時、無から生を生み出すのではなく、新しく生まれてくる命に憑依するのだけど、兄弟子はそこに目をつけた」

「えっ、どういう意味だ?」


「生まれてくる命がなければ転生する事もないと考えたんだよ」

「ちょっと待って、それって……」


「兄弟子の名はルシファー、自らが転生する器を無くす為だけに、人類を滅ぼそうとした魔王と呼ばれた男だ、それが復活したんだ」


そう言うラフシャルは、凄く悲しい表情をしていた──

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