第174話 封印の解除へ/結衣
大賢者ラフシャルと共にライドキャリに戻ると、次の行動が告げられた。
「ここにある、残り二つの封印を解いていく」
ブリュレ博士から、これからどうするのか問われてラフシャルがそう答えた。
「ラフシャル様、残り二つの封印を解くと、巨獣が復活してしまいますが……」
ブリュレ博士が焦ったようにラフシャルに助言する。しかし、大賢者は眉一つ動かさずにこう言った。
「それが何か問題なのか? 元々、巨獣はこの世界の住人だ。それを人間という一種族の都合で封印されているに過ぎないのだぞ。自然な形をこの世界に取り戻すには巨獣の封印を解くのが一番だと思わないか」
「しかし、今の衰えた人間には、復活した巨獣を抑える力はなく……」
「そんなひ弱な種族なら滅んでしまえばいいのだ!!」
凄く強い口調でラフシャルが言い放った。
「わ……わかりました。私たちメシア一族にとってはあなたの言葉が全てです。封印の解除に向かいましょう」
「ふっ、わかればいい、しかし、安心するがいい、この俺が強い人類を復活させてやる、巨獣如き恐るに足らぬほどにな」
「それではニトロルーディアなどの技術の復活をなさるのですね」
「そうだ、爆発的に平均ルーディア値をあげてやる。そして強力な魔導機も復活させる」
ちょっと大賢者ラフシャルの狙いが読めない、メアリーもその話を聞いて眉を細め考えている。巨獣というのを復活させなければそんな力も必要ないと思うのだけど……しかし、そんな疑問を抱いているのはこの場では私とメアリーぐらいであった。完全に調査隊を掌握しているラフシャルの言葉に皆、疑いすらもたない。
「ラフシャル様、そのルーディア値強化の一番目は、このエンリケに施していただけないでしょうか!」
こちらの仲間だと思っていたエンリケはメシア一族の人間であった。ラフシャルが無事に目覚めてやってくると、涙を流して喜んでいた。しかも同行しているライダーも全てメシア一族の配下のライダーのようで、結局、今回の遠征でメシア族の配下でなかったのは私とメアリーだけだった。そもそも調査隊の計画自体がメシア族のプロセスの一つに過ぎなかったようで、私の参加がイレギュラーだったようだ。
「うむ、もちろん最初の強化はメシア一族のライダーからに決まっている。準備ができたらすぐに強化してやろう」
「はっ! ありがたき幸せ!」
エンリケは本当に嬉しそうだ。それを見てメアリーの表情が引きつる。
「エンリケの奴、まさかメシア一族だったとは……」
「他のライダーもメシア一族のようだし、私たちだけではどうしようもないわね……」
「わかってる、ここは大人しく従って、国に帰ったらどうにか手を打つしかないわ」
「でも、アムノ皇子もメシア一族なのよね、皇子は確か大将軍の称号を持つ、軍の有力者なんでしょう?」
「そうね、もう、直接、皇帝陛下の耳に入れるしか手がないかもしれないわ」
「皇帝陛下に何を言っても無駄です、すでに帝国の中枢はメシア一族が掌握してますので」
ブリュレが私とメアリーのヒソヒソとした内緒話を聞いてそう言ってくる。凄い地獄耳だ。
「報告するぐらいの義務はあると思いますので……」
「そうね、あなた達軍人にはそういう義務はあるかもしれませんね、ですから構いませんよ、戻った時に皇帝に報告するのは自由です」
なんとも堂々としている。本当に皇帝陛下への報告を気にしてないようだ。
それからしばらくして、ブリュレから出撃するように指示された。
「それは要請ですか、それとも命令なのですか」
「そのどちらでもないわ、必然よ、出撃しなければこのライドキャリアは破壊され、あなた方も国に帰れなくなるわよ」
「どう言うことですか……」
「ラフシャル様の封印を解いた時に、遺跡の防衛システムが起きてしまったの、その為に大量のガーディアンがこちらに向かっているのよ」
「大賢者ラフシャルの力でどうにかしたらどうなの?」
メアリーが嫌味ったらしくブリュレ博士に言い放つ。
「ラフシャル様の力は世界を変える為にあるの、こんなつまらないことで使う必要はないわ」
「そう……自分の命が危険にさらされている状況が、つまらないとは桁違いに大物ね」
「フッ、それで出撃するの? それとも心中する?」
「悪いけど私が心中するとすれば、愛した男とだけよ。よくわからない大賢者や狂った学者とするつもりはないわ」
そう言って、メアリーは格納庫へ向かった。私もメアリーと同じ意見だ、怪しい大賢者と、その狂信者と自滅するつもりはない。メアリーを追いかけるように格納庫へと向かった。
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