第167話 地底海流
ビールライフ渓谷にある大きな岩、ラフシャルが言うにはここが地底海流の入り口だそうだ。
「とても入り口には見えないけどな」
「地底海流は便利だけど危険な場所でもあるからね、簡単には入れないように仕掛けが施されているんだよ」
ラフシャルがそう言いながら、何かの機械をいじり始めた。
「特定の周波数を送れば、入り口は開かれる」
ラフシャルがそう言うと、大きな岩はドドドドッと地響きを上げながら、真っ二つに割れて開かれていく。
「すげーな……これが古代文明の技術か……」
ジャンが感心してそう言う。
「大掛かりではあるけど、作りは単純なんだよ」
ラフシャルの言う単純と、俺たちが思っている単純はどこか違うような気がするけど、指摘すると話が長くなりそうなので言わないでおく。
開かれた入り口はライドキャリアのフガクでもゆうに通れるほど広い。ゆっくりと開かれた岩の奥に進んでいくと、道はなだらかに下降していた。
「このまま1キロほど降っていく」
その言葉通りに、しばらく下りが続いた。降りた先では何か激しい轟音が聞こえてくる。
「あれが地底海流だよ、古代文明では長距離移動や、エネルギーの生成に利用されていたんだ」
そこにあったのは荒れ狂う海であった。暗い地底で、フガクから発せられる魔光灯の光りに映し出される光景は恐怖すら感じる。
フガクをゆっくり進ませ、海流の流れにのせようとする。
「フィスティナ! 気をつけろ、下手に岩とかにぶつけるとひっくり返るぞ!」
「了解です。もう少し魔光灯の明かりを強くできますか、視界が狭くて操作しにくいです」
操縦者のフィスティナの要望に、ジャンが艦内通信で乗員に指示を出す。すると明かりが増え、視界が広がった。
「そのままゆっくり波にのせろ、フィスティナ」
「波と接触します! 衝撃に注意してください!」
それを聞いて、ジャンが艦内放送で全員に注意を促す。
「全員衝撃に備えよ! 揺れるぞ!」
俺も慌てて近くの柱に捕まり、衝撃に備えた。
波にフガクがのった瞬間、大きく艦内が揺れた。ナナミとファルマが小さく声をあげる。
「きゃー!」
波に完全にのると、激しい揺れは収まり、ゆっくりとした大きな揺れへと安定していく。
「もう大丈夫、あとは海流が勝手に目的地まで持っていってくれるよ」
「どれくらいのスピードが出てるんだ」
「そうだね、50ノットくらいかな」
「50だと! そんなに早いのか!」
「最速だと60ノットくらいまで上がるかな」
「すげーな……」
ジャンが感心してるけど、50がどれくらいの速さかも理解していない俺には何が凄いかもわからなかった。
フガクが安定すると、みんなリラックスして思い思いにこの地底海流の船旅を満喫し始めた。俺はナナミとファルマと一緒に、ブリッジから外の景色を眺めていた。
「勇太、見て! 大きな岩だよ」
「確かにデカいな、あんなの落ちてきたらフガクでも危ないかもな」
「そんな怖いこと言わないでよ、勇太〜 想像しちゃうでしょう」
ナナミに怒られて、周りを見渡せるブリッジから、すごすごとキッチンルームに移動する。そこでコーヒーに似ている炭豆茶と言う飲み物を作っていると、海流移動のおかげで操縦から解放されたフィスティナがやってきた。
「炭豆茶ですか、私も飲みたいです……」
控えめな感じでそうお願いされる。俺は豆の量を増やして、二人分の炭豆茶を作った。
「そう言えばフィスティナとはゆっくり話す機会もなかったよな」
炭豆茶を飲みながら何気なくそう話を切り出した。
「そうですね、勇太さんはいつも忙しそうですから」
「そうか、忙しそうに見えるんだ」
「違うんですか?」
「いや、自分ではそんなに忙しいとは思って無いな、やることをやってたらいつの間にか時間が経過しているだけだ」
「それが忙しいって言うんじゃないんですか?」
「まあ、そうなるのかな」
そんな惚けたような受け答えをすると、いつも無表情なフィスティナが少し笑ってくれた。
「勇太、ライダーミーティングをしますわよ、格納庫に集合ですわ!」
リンネカルロがちょっと不機嫌な感じでそう言ってきた。
「えっ、そんな予定あったっけ?」
「ありましたわよ、ほら、一緒に格納庫までいきますわよ」
「ごめん、フィスティナ、コップ下げといて」
「はい、わかりました」
リンネカルロは逃げないようにする為か、俺の腕をギュッと掴まえて引っ張る。俺はそれに逆らわず、そのまま格納庫へと連れて行かれた。
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