第166話 出発の日
巨獣の巣を目指して、エモウにある地底海流の入り口のある、ビールライフ渓谷に出発する日、連邦国家、初代国家元首として忙しくしているラネルと渚が見送りに来てくれた。
「勇太、あまり無茶しちゃダメだよ。いくら強いって言っても上には上がいるんだから」
「わかってるよ、無理はしないって」
「勝てないって思ったら逃げるのも手なんだからね」
「だからわかってるって」
余程心配なのか、渚がしつこく言ってくる。
「勇太さん……あの……無双鉄騎団とは防衛契約している間柄ですし、このアムリア連邦が自分の国だと思っていつでも帰ってきてください」
ラネルが社交辞令なのか、そんな優しい言葉をかけてくれる。
「ああ、もちろん帰ってくるよ、たまにこないと渚がうるさそうだしな」
「何よそれ、別に私はうるさく言わないわよ! 本当は勇太の方が私に会いたいから来たいだけしょう!」
名残惜しいやり取りも終わり、扉が閉まりフガクが動き出す。渚とラネルは見えなくなるまでこちらを見送ってくれていた。
「本当にいいの勇太……もう少し強く言えば、渚、勇太についてきたんじゃないの?」
渚とのやり取りを見ていたのか、ナナミが寂しそうに言ってくる。俺は笑顔を作りナナミに言った。
「渚とは付き合いが長い分、一緒にいた時間が長かったからな、まだその貯金が残ってるからそんなに寂しくはないんだよ。それよりアイツが友達の為に何かしたいって思ってる気持ちを大事にしてやりたいんだ」
「そうか……そうだよね、ちゃんと通話共有できてるからいつでも話ができるしね」
「そうだ、会おうと思えばいつでも会える、それだけで今は十分だよ」
正直、渚に側にいて欲しいとは思ったりもするが、友達を大事にするところなんて、俺が好きな渚のいいところでもあるからな。
ブリッジに行くと、ジャンとライザがまた何か言い合いをしていた。
「だから、師匠が必要だって言ってるんだって!」
「師匠……なんだよ、ライザ、お前いつの間にラフシャルに弟子入りしたんだよ」
「自分より優れた人間に師事を仰ぐのは当然でしょう」
「まあ、そりゃ勝手だけどよ……」
俺の顔を見たライザが、ジャンとの言い合いに巻き込もうとした。
「ほら、勇太も言ってよ、必要な物は必要なんだって!」
「いや、なんの話をしてるか分からないんだけど」
俺がそう言うと、ライザの代わりにジャンが答える。
「ラフシャルがマグネトロンって物質が欲しいんだとよ」
「欲しいんだったら買ってやればいいだろ」
「バカ、アホみたいに高いんだぞ! 1キロ1億は流石に簡単には買ってやれねって」
「いっ、1億! ……ライザ、ラフシャルに我慢しろって言えよ」
「なんだよ、やっぱり勇太も何もわかってないよね、師匠が手を加えれば1億の物も、10億、20億って価値が上がるんだから! ちょっと高いからってそっちの方が勿体無いでしょう!」
まあ、確かにラフシャルの発明はそれくらいの価値があるかもしれないけど……
「それよりどうしてラフシャル本人が言ってこないんだ?」
「師匠は『欲しいけどね、高いんだよな……やっぱり値段を考えたら頼めないな……』って謙虚に遠慮していたから、代わりに弟子の私が言いに来たんでしょう」
なんかそれもラフシャルの計算のような気がしてきたな……
「ジャン、確かにラフシャルの発明品にはそれくらいの価値はあるかもしれないから、今回は買ってやったらどうだ」
俺がそう言うと、少し悩んだジャンも渋々了承した。
「今回だけだからな! このレベルの物を頻繁に欲しがられたら破産しちまうからよ! ラフシャルにちゃんと言っておけよ!」
それを聞いたライザは嬉しそうに格納庫へと戻っていった。
「たくっ……こんなんじゃ儲けても儲けても、材料費に消えちまうよ」
「と言うことは仕入れに町によるんだろ、俺も買って欲しい物があるんだけど」
「なんだよ珍しいな、何が欲しいんだ」
「自室用の言霊箱が欲しいんだ」
「なるほどな、部屋に籠もって幼馴染と楽しく会話したいんだな」
「なんだよその言い方……」
「まあ、ラフシャルのおねだりに比べたら子供の玩具みたいなもんだからな、最新の言霊箱を買ってやるよ」
渚だけじゃなく、ラネルとも通信共有しているので、部屋でゆっくり話をする為に中古でもいいので欲しいと思ったのだけど、最新のを買ってくれるとは嬉しい誤算だ。
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