第164話 ガーディアン/結衣
機械の獣は時計回りで距離を取りながらゆっくりと私たちの周りを回る。おそらく飛びかかるタイミングをみているのだろう。
最初に動いたのはメアリーだった。メアリーの搭乗する魔導機は、エミナの乗っていたシュリアプルと同型のヴァリアプル、ダブルハイランダー専用機で、私はよく分からないけど、メカニックたちの話では、バランスの良い名機と呼ばれている機体である。
メアリーはトライデントと呼ばれる三又の槍を武器として使用している。そのトライデントで神速のひと突きを機械の獣に向けて繰り出した。機械の獣はサッとその攻撃を避けて、頭からヴァリアプルに体当たりする。かなりの衝撃なのか、メアリーは小さく呻き声を上げて吹き飛ばされる。
私は小さくステップを踏みながら機械の獣に近づき、レイピアの連撃を放った。機械の獣は恐ろしい身のこなしで私のレイピアの攻撃を全て避けた。
「結衣、この相手、手強いわ、同時に攻撃しましょう!」
私はメアリーの提案に同意する。ガーディアンの力は最低でもトリプルハイランダーに匹敵するくらいはあるように思えた。
私がレイピアの攻撃で牽制している隙に、メアリーが機械の獣の後ろに回り込む。
「結衣! 今よ!」
その合図に合わせて、私は渾身の一撃を機械の獣に繰り出した。それと同時にメアリーもトライデントを振り、強烈な攻撃を放つ。
流石に素早い機械の獣でも、前後ろからの同時攻撃に反応するのは難しかったようで、トライデントの一撃は胴体を切り裂き、私のレイピアは頭部を貫いた。
ギギギッ……と鈍い音を響かせながら、機械の獣はその場に崩れ落ちた。
「倒したみたいね」
「一人だったら勝てたかどうかわからなかった……」
それは本音だった。かなりの強敵だったのは間違いない。
「まあ、トリプルハイランダーの結衣なら勝ってたわよ。私一人だったら間違いなくやられたと思うけど」
謙遜かメアリーはそう言う。
念のために周囲の安全を確認して、後ろで待機していたブリュレ博士に伝える。
「ブリュレ博士、もう大丈夫だと思います」
「ありがとう、やはり古代遺跡の調査には護衛は必須ね」
「他の遺跡でもこんなことあるんですか」
「珍しくはないわね、ガーディアンに調査隊が全滅させられることもあるのよ」
確かに実際にガーディアンと戦って感じたが、並の魔導機では歯が立たないのではないかと思う。
ガーディアンのいた広い空間から先に進むと、そこには入り口にあったような石板が置かれていた。ブリュレ博士は何かのメモと石板に書かれている文字を交互に見て、何やら頷いている。
「予想通りね、やはりこの先にラフシャルが眠っている」
「そこが最後の封印なんですか」
「それはまだわからない、とりあえずこの封印を解かないと……」
そう言うと、メモに何かを書き足しながら、他の博士と話をして封印を解く方法を調べ始めた。
小一時間ほどすると、次の封印の解除方法が分かったのか、ブリュレ博士は石板に指を触れて何やら操作し始めた。ブリュレ博士が触れた石板の文字は淡く光り、光の軌跡を描いていく。
「よし、これで良いはずよ」
ブリュレ博士がそう言うと、石板の枠が赤く光始めた。ピーン、ピーンと妙な音がすると、奥でガッチリと閉ざされていた扉がゆっくりと開き始めた。
そこから先は通路が狭くて魔導機は通れそうになかった。ライドキャリアから衛兵を呼び、調査班に同行させる。
「結衣、私たちもいきましょう」
「魔導機のない私たちが行っても何もできないわよ」
「あなたは大賢者に興味がないの? この先で眠ってるかもしれないのよ」
「確かにそう言われると興味あるけど、またガーディアンが現れるかしれないよ、外の守りを固めていた方がいいんじゃない」
「大丈夫、エンリケも呼んでおいたから、外の守りは彼に任せましょう」
メアリーがしつこく誘ってきたからってこともあったが、私も大賢者に興味があったのも事実で、結局、ブリュレ博士に同行することになった。
通路をしばらく進むと、下へ続く長い階段があった。私たちは迷うことなくその階段を降りて、その先へと進んでいった。
階段の先にはさらに強固な扉があったが、すでにそこの解除方法はわかっていたのか、ブリュレ博士によって簡単に扉は開かれた。
扉の先は、大きな会社の会議室くらいの広い部屋で、部屋の中心には棺桶のようなカプセルが置かれていた。そのカプセルの中には人が眠っていた。眠っている人は二十代くらいの若い男で、整った顔立ちをしている。
「やったわ……とうとう見つけたわ……大賢者ラフシャルよ」
ブリュレ博士がそう言い切った。この人が大賢者ラフシャル……喜びに沸く調査隊とは裏腹に、なぜか私の胸の奥では、妙な胸騒ぎがフツフツと高鳴り始めていた。
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