第163話 大賢者ラフシャルの祠/結衣

湖の奥の古代遺跡の先は、広大な地下空間であった。幾つもの遺跡が点在していて、全ての遺跡を調査するのは長い時間を要した。


「すでに地下空間を調査して一ヶ月、ブリュレ博士、何か得るものはあったのですか」


同じような風景、同じような調査に飽きてきたのだろう、メアリーが食事をしていたブリュレ博士にそう聞いた。


「もう少しで大賢者ラフシャルの眠る遺跡を発見できそうです、最後のキーの謎が解ければ後は連鎖的に全ての謎を解くことができるでしょう」


「大賢者ラフシャルって眠っているだけなの? もしかして起きたりするのかしら」

気になってそう言うと、メアリーが少し笑いながら否定してくる。

「結衣、何言ってるの、そんなわけないでしょう、何千年も前の人物なのよ。眠っているってのは遺体が安置されてるってだけだと思うわよ」

「そうだよね、ただのお墓だよね」


そう私も納得したのだけど、ブリュレ博士は真顔でこう言ってきた。

「そうでもないわ、本当に眠っているだけの可能性は十分にあるわよ」


その言葉にはメアリーも驚いている。

「それじゃ、起きてきて話を聞けるってこともありえると……」

「この調査の私の本当の目的はそこにあるの、大賢者の知識……どんな宝より価値があると私は思っています」



地下空間の遺跡の中でも一際大きな円形の遺跡、発見当初からブリュレ博士が一番興味を示していたこの遺跡で、最初の封印が解かれようとしていた。


「やはり、この石碑に封印を解除するヒントが隠されていたのね」


ブリュレ博士がそう言いながら石碑の文字列に触れていく。石碑の文字は、ブリュレ博士が触れると淡く光り、光の軌跡を描く──そして最後の文字に触れた瞬間、石碑の枠面が赤く光り、周囲の空気が重くなった。


「どうなったの?」

「一つ目の封印が今、解かれました」

ブリュレ博士のその言葉の後に、地下空間全体に大きな変化が訪れる。ウィーン、ブオーンと何かが起動するような大きな音が響き、円形の遺跡を中心に、パッと広がるように地下空間に明かりが灯り始めた。それは地下空間に電気が供給されたような感じであった。


「2つ目の封印はこの円形の遺跡の中です」


円形の遺跡はかなり大きな建物で、その通路は魔導機でも通ることができた。私とメアリーは、ブリュレ博士たち調査班を護衛する為に魔導機の搭乗して、2つ目の封印まで同行した。


一つ目の封印が解かれたことによって、今まで開くことができなかった大きな金属製の扉が、スーと簡単に開き、遺跡の中へと進むことができた。広い通路を進むと、野球場ほどのスペースに出る。


「博士! ちょっと後ろに下がってください! 何かあります!」

メアリーが何か見つけたのか、ブリュレ博士にそう声をかけた。見ると広い円形の部屋の中心に、大きな物体が一つ、置かれていた。ここからじゃ何かわからないけど、魔導機のようにも見えた。


「結衣、危険がないか調べるわよ」

「うん、わかった」


ブリュレ博士たちを後ろに下がらせると、私とメアリーは大きな物体に近づいた。


近くまでくると、その物体が反応する。ピーピーと高い音を発しながらギギギッ……と、錆びた古い機械のような感じでその物体が起き上がる。


「何あれ、魔導機なの?!」

見た目は魔導機のようだが、その形は人型ではなく、獣に近かった。その機械の獣は私たちの姿を確認すると、物凄いスピードで襲いかかってきた。


「おそらく遺跡のガーディアンだわ! 気をつけて、古代のガーディアンの力は未知数よ!」

ブリュレ博士が言霊箱でそう注意してきた。


一瞬で懐に入られ、気がつけばその機械の獣に首元を噛み付かれていた。プシュプシュと何かの配線を食いちぎられる音がする。


「結衣!」

メアリーが私の名を叫びながら槍で機械の獣を貫こうとする。しかし、その攻撃を察したのか、機械の獣は私の首から牙を離し、メアリーの攻撃を避ける。


機械の獣が離れて自由になると、私はレイピアを鞘から引き抜いた。そして機械の獣に向かって戦闘意思を示し、レイピアの先端を向けた。

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