第162話 急転直下

テミラの聖都にてエモウ軍、テミラ軍、アムリア軍の損傷した魔導機の修復などが行われ、不測の事態の備えが行われていた。兵たちも一時的な休息を与えられ英気を養う。


そんな、まだ戦いの空気から抜け出せない状態であったテミラであったが、東部諸国連合の国々からの相次ぐ通信で状況が変化していった。


「東部諸国連合の諸国から、また盟主として連合をまとめて欲しいと言ってきている」

テミラのベダ卿が呆れたようにそう言う。

「現金な奴らだな、裏切った癖に戦争に負けたら、すぐにまた何もなかったように戻ってくるのか、信用できねえなそんな国は」


テミラ、アムリアの会議に、エモウ代表として参加していたジャンがそう発言する。


「しかし、ルジャ帝国……いや、ヴァルキア帝国の驚異に対抗するには、多くの国が手を結ぶ必要があるのは事実だ」

「そうですが、前と同じ連合組織では個々に大きな圧力があった時、脆く崩壊するのは今回のことでよくわかったと思います。もし、東部諸国連合を再建するのであれば、それらの問題を解決する新たな組織作りが必要かと思います」


ベダ卿の言葉に国の代表としてラネルが意見を言う。彼女のそんな姿は見慣れていないのでなんか新鮮だ。


「私もラネル王女の意見に賛成だ。それについては、この会議の前に通信でエモウ王に相談していたのだが、良い案があると返事を頂いた」

「良い案とはどのようなものですか」

「直接話がしたいと、こちらに向かってくれている。後、他にも、エモウ王が声をかけたゲストが数人来てくれるそうなのだが、具体的な情報はまだ教えてくれなかった」


エモウ王がここへ向かっているんだ。ラネルも事前に聞いていなかったようで驚いていた。



エモウ王とゲストが到着したのはそれから三日後のことであった。現れたゲストは三人、驚くことに全員が大国の国主であった。


「シバリエのミュラ五世、ルルバ共和国のバウゼン大統領、それにリネア王国のメネミヤ女王……東部屈指の大国ばかりがどうして……」


ゲストの面々を見てラネルが心底驚いている。それほど豪華な顔ぶれのようだ。


「ここに集まっている国家には共通する大きな問題を抱えている、それを一気に解決する提案を提示したい」

エモウ王が集まった面々に向かってそう話し始めた。


「東部諸国の共通する大問題など、ヴァルキア帝国のことに決まっていると思うが、どうそれを解決してくれるのだエモウ王」

「普通に考えたら同盟などの提案だと思うが……ここに集まった国家が束になったくらいではヴァルキア帝国には勝てないぞ」

「エモウ王、あなたの提案に興味があってここまでやって参りましたが、その解決案が単なる大同盟だったら失望しますよ」


ゲストたちは思い思いの言葉を口にする。エモウ王は参加者を見渡すと、こう切り出した。

「いくら多くの国家が集まっても、切り崩しや連携の難しさからヴァルキア帝国などの超大国には対抗することができないだろう、ならばどうするか、こちらも一つの大きな国になるべきだと考える。私は東部諸国による、連邦国家の樹立を提案したい」


「連邦国家だと!」

「東部の小国郡を一つの国にするのか!」

「確かに連邦国家なら各々の国を残しつつ、強固な組織を作るのは可能ですね……面白い、さすがはエモウ王、わざわざ出向いた甲斐がありましたわ」


「エモウ、シバリエ、ルルバ、リネア、この四カ国が参加するのであれば、ヴァルキア帝国を嫌う国々は連邦に興味を持ってくれるだろう。どうかな、テミラのベダ卿、それにアムリアのマジュニ殿、あなたたちはどう思われるか」


「素晴らしい提案だと思います、実現すれば東部のほとんどの国家が参加するかもしれません」

ベダ卿はエモウ王の提案に賛同した。それに対してアムリアのマジュニは、別の問題を指摘する。


「しかし、連邦国家の国家元首はどうするつもりだ、ミュラ五世、エモウ王、バウゼン大統領、メネミヤ女王、誰が就任しても角が立つように思うが……」


「もちろんそれも考えている、将来的には各国家の代表による投票で何年かに一度決めるとして、初代国家元首はある人物を推薦したい」


「エモウ王が推薦、それは興味ありますね、東部を束ねることのできる逸材とは誰のことですか」


「そこにいる、アムリア王国のラネル第二王女です」


いきなりエモウ王から指名され、ラネルは驚きの表情で固まる。

「わっ、私にそんな大役は……」


「この連邦国家の構想は前からあった──しかし、どうしても初代国家元首になり得る人材がいないことが理由で実現が難しいと考えていた。だが、私はラネル王女に出会い、そして手腕を目の当たりにした。テミラを守り、ルジャ帝国の侵攻を阻止できたのは彼女の力が大きいだろう」


「いえ、私には何もできませんでした。テミラを救ったのはエモウ軍の力が大きかったと思いますし……」

「そのエモウ軍を動かしたのは他ならぬラネル王女ではないですか」


ゲストたちがエモウ王の言葉に賛同して続く。


「そう、私たちがここへ来たのはエモウ王に誘われただけじゃないのですよ、あのヴァルキア帝国の支援を受けたルジャ帝国を退けたというアムリアという小さな国にも興味があったからです。良い案だと思います、私もラネル王女に初代国家元首をお願いしたいと思います」


余程ヴァルキア帝国が嫌われているのか脅威に思われているのか、ここに集まった国々は連邦国家樹立という大きな選択を悩みもせずに決断していた。しかもラネルに対する評価が高い、彼女が優秀なのはなんとなく俺にもわかっていたが、ここまでとは凄いな。

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