第161話 幼馴染の話
「よし、片付いたみたいだから、テミラの聖都に向かうぞ」
戦争は終わりを迎えようとしていたが、ルジャ帝国がこの後どんな行動に出るかまだわからない。ヴァルキア帝国から至急の救援を受けて再度攻めてくる可能性も考えられるので、俺たちはまだエモウ王国に帰るわけにはいかなかった。
自室で休みたいと思っているのだが渚が俺を解放してくれない。確かに積もる話はあるけど、休んだ後でもいいと思うのだが……
渚の怒涛の如く一方的な話を聞いていると、ラネルがこちらへやってきた。そうか、渚はラネルの国でお世話になってるから面識があるんだな。渚はラネルの姿を見ると、彼女に俺を紹介する。
「あっ、ラネル、そうだ、紹介しておくね、こちら勇太、私の幼馴染だよ」
ラネルは渚からそう言われて、ちょっと引きつった表情を見せる。そうだよな、今更紹介も何も、すでに俺とラネルは知り合っている。
「いや、渚、もうラネルの事は知っているぞ、紹介しなくて大丈夫だ」
「あっ、そうか、もう知り合ってるんだ」
「渚……幼馴染って……前に話をしていた人って勇太さんのことなの……」
ラネルは神妙な表情でそう渚に聞く。
「えっ、あっ……うん……そうだよ、前に話しをしたあの幼馴染……」
なんとも歯切れの悪い感じで渚が認める。よくわからないけど、二人の会話の中で俺の話が出たことがあるようだ。
「そうなんだ……」
凄い勢いでラネルの表情が曇っていくのがわかった。渚の奴、俺の事ラネルになんて話をしてたんだよ。もしかして、子供の頃の悪事を面白おかしく話したんじゃないだろうな。あまり大きな声で言えないこともやらかしてるから洒落にならないぞ。
ちょっとラネルに軽蔑されたかと思ったけど、彼女はすぐにいつもの表情に戻り、渚とは逆側の俺の隣に座ってきた。
「勇太さん、お腹空いてませんか、何か取ってきましょうか」
「いや、お腹は空いてないな」
それより眠りたい……だけどその主張をする雰囲気ではなかった。間髪入れずに今度は渚が話を振ってくる。
「何か食べたいんだったら、あれ作ったげようか、勇太の好きだった芋のフライ、こっちにも芋はあるから作れるよ」
いや、お腹空いてないって言ってるではないか、確かに渚の作った芋のフライは食べたいが……
幼馴染との久しぶりの再会に気を使って、二人っきりにしてくれていた仲間たちが、ラネルが加わったことで三人になったのを見て、遠慮しないで俺の周りに集まってきた。
「えっと、渚だっけ、幼馴染だったら勇太の子供の頃の事、知ってるわよね、話しておくれよ」
「ナナミも聞きたい! ねえねえ、どんな感じだったの」
何かを話してくれるだろうとみんな渚に注目する。その期待感を感じたのか、絞りだすように話し始めた。
「ええと……勇太は良い意味でも悪い意味でも、今も昔も変わらないかな、いつまでも子供っぽくて、鈍感で、無頓着、あっ、そうだ、小さい時にこんなことがあってね──」
そう言いながら渚は俺の昔話を始めやがった。俺の話が何が面白いのか、全員、渚の話に集中し始める。しかし、これはチャンスかもしれない、今のうちにこの場から離れ、自室へと逃げ込めば……そう考えそっと席を立とうとした。
「あっ、勇太が、どっか行こうとしてる!」
こら、こら、ナナミ、人の話はちゃんと集中して聞きなさい! ナナミのタレコミで俺の逃亡がバレ、みんなが俺を見て、無言の圧力で席に戻れと伝えてくる。
観念して席に戻ろうとしたのだが、ここで意外な助け舟が出された。
「おい、おい、お前ら、勇太は昨日から馬車馬のように働いて疲れてるんだからよ、そろそろ休ませてやれよ」
ナイスだジャン、そうだもっと言ってやれ。
「でも、今、勇太の幼馴染が、勇太の子供の頃の面白話を話してくれてるんだよ」
「なんだと! 勇太の面白話か……そりゃ本人立ち合いのもと、聞かねえとダメだな。勇太、休むのは話が終わってからだ、もうちょい付き合えよ」
「ジャン! 俺の味方じゃないのかよ!」
「いいから、いいから、若いんだからまだいけんだろ」
たくっ……自分の面白話なんて聞いても何も面白くないぞ! それよりさっさと寝かせてくれ──
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