第160話 戦いの後に

「気がつくのが遅い! どれだけ鈍いのよバカ勇太! 幼馴染がこれだけ近い距離にいるのに、私がどんな気持ちで一緒に戦っていたかわかる!!! わっ、私は──」


返ってきたのはあの幼馴染の懐かしい口調だ。やっぱり渚だった。ジンと熱いものが胸に広がる。どうも怒られているようだったけど、そんなことよりこの熱くなった気持ちをどうにかしたく、思わず、魔導機同士なのに渚の機体を抱きしめてしまった。


「よかった、本当に渚だ。無事で良かった〜心配してたんだぞ渚……」

「ゆ……勇太……」


すぐに魔導機から降りて直接話がしたかった。だけど、今は戦争中なのを思い出し、考えを改める。


「しかし、渚、積もる話は後だ。その前にこの戦いを終わらすぞ」

「わっ、わかってるわよ、さっさと敵を倒しましょう」



俺たち無双鉄騎団の活躍で、数的劣勢だった戦況はすでにひっくり返っていた。敵の残りは100機ほどで、徹底的に叩くと言ったジャンの指示により包囲殲滅されそうであった。


「一機も逃すな! 叩ける時に徹底的に叩き、戦争する気を完全に消失させろ!」


ジャンが全軍に最後の檄を飛ばす。確かに後々の事を考えたら、今のうちに少しでも戦力を叩いておくのは当然だろう。


ルジャ帝国軍は、20機ほどになると、降伏の意思を示して武器を捨てた。いくら戦力を叩いておきたいと言っても、降伏した敵を倒すなんてことはしない。ライダーは全て魔導機から降ろし、ライドキャリアの搭乗員や歩兵たちと一緒に拘束して捕虜にした。


拘束した捕虜の中に、敵の将軍がいた。今回の侵攻軍の司令官だそうだ。その将軍から今回の侵攻には、ルジャ帝国の八割の戦力が参加していたとの情報を得る。侵攻軍のほとんどを潰したので、もうルジャ帝国には戦争する戦力は残っていないだろう。


ようやくちゃんと休めるな──そう思ったのだけど……


「勇太、あなたのライドキャリアはどこよ、案内してよ」


そういえば幼馴染との感動の再会シーンが残っていた。休めるのはもう少し先になりそうだ。


渚を連れてフガクに戻る。格納庫に入り、アルレオから降りると、魔導機から降りた渚が駆け寄ってきた。久しぶりに見た渚はちっとも変わってなかった。あの渚が目の前にいる、そう思うとなんだか嬉しかった。


「勇太、全然、変わってないね」

「当たり前だ、久しぶりって言ったって、何十年も経ってるわけじゃないぞ」

「そりゃそうか……」

渚は何かを求めるように俺の目をジッと見る。この仕草は俺に何かして欲しい時にするやつだ。

「なんだよ、何して欲しいんだ」

「いや、別にして欲しいわけじゃないけど、さっきみたいにギュッてこないのかと思って」

「ばっ、バカ、生身でそんな恥ずかしいことできるわけないだろ」

「魔導機同士だって十分、恥ずかしかったわよ! 戦場であんなことして……バカじゃないの!」

「そもそもな、どうして俺だって気づいてるなら、さっさと言わねえんだよ、もっと言うタイミングあっただろうが!」

「何言ってんの、あまりにあんたが鈍いから、いつまで気がつかないか試してたんでしょう」

「なんだそれ! 試す理由がわかんねえ!」

「ふんっ、理由なんてどうでもいいでしょ!」


渚は不機嫌にそっぽを向いて不貞腐れた。たくっ……本当に面倒臭い奴だな。俺は渚の望むように、そっと体を引き寄せて抱きしめてやった。最初はビクッと硬直して驚いていた渚だけど、腕を俺の背中に回して抱き返してきた。やはり生身の体で触れることで、再会を実感できる。渚もそれを求めていたんだろうな。


仲間たちが次々戻ってきてお互いの労を労う。しかし、渚の存在に気がつくと……


「勇太、その子は誰なんだい? いやに親しい感じだけど……」

「ナナミ、見てたよ。勇太とその子がさっき抱き合ってたの!」

「勇太、どう言うことですの、そんな不謹慎な……」


「いや、違うって、そんなんじゃないよ、コイツは幼馴染の渚、久しぶりに会ったから感動の再会してただけだ」


「幼馴染……そうですの、なら大丈夫ですわね」

「どうして幼馴染だと大丈夫なの?」

ナナミが不思議そうに聞く。

「あら、知りませんの? 幼馴染との恋愛はうまく成就しないものですのよ」


どう言う理屈か、リンネカルロは自信満々にそう言い切った。まあ、確かに渚は大事な幼馴染だけど、恋人になるとかちょっと考えられないかな。

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