第156話 追いかけて/渚

砦から勇太が遠ざかるのを見送る。昔から極端に鈍い彼が、魔導機ごしに会っても私に気がつくわけがない。ここは直接会って、頬を引っ叩くくらいのことはする必要があるだろう。


「渚、あなたどうして泣いてるの……何かあったの?」

ユキハが私の泣き顔を見て心配そうにそう言う。


「ううん、なんでも無いの、それより、ユキハ、至急、ラスベラを修理して欲しいんだけど」


今、勇太のことを説明しても理解してもらえないだろう。それより私は魔導機で勇太を追いかけることを考えていた。


「そうね、また敵が戻ってくる可能性もあるし、メカニックを集めてすぐにラスベラを修理させましょう」



アムリアのメカニック、砦にいたテミラのメカニック総動員でラスベラを修理してくれた。本当はここを守る為に急いで直してくれたんだと思うけど……私は後ろめたい気持ちを感じながらもユキハにお願いした。


「ラスベラで白い魔導機を追いかけたいって?! どうしたの渚……説明してもらえる」

「確かめたいことがあるの、私にとってはすごく大事なことだから……」

「さっき泣いてたのもそれに関係するのね……わかったわ、いってらっしゃい。幸い、この辺りの敵は全て撤退したのを確認できたし、しばらくは安全だと思うから」

「あっ、ありがとう、ユキハ!」


私が急いでラスベラに搭乗しようと走り出した時、ユキハに止められた。

「ちょっと待ちなさい、渚。あんた白い魔導機を追いかけるのはいいけど、どこ行けばいいか分かってるの?」

「えっ、とりあえず北に向かったから北に行こうとしてる……」

「さっきラネルと通信で話をしたけど、エモウ軍はルジャの侵攻軍の本陣を攻撃する予定らしいわ、白い魔導機がエモウ軍所属ならそれに合流するんじゃないかしら。詳しい場所はアムリア軍のチャンネルでラネルに直接聞きなさい」

「うん、わかった。ユキハ、ありがとう」

「あと、ラスベラで追いかけても時間がかかりすぎるでしょ、砦に魔導機を載せられるライドホバーがあったから、私の名前を出して貸してもらいなさい」


何かを感じ取ったのかユキハはお節介なくらいに私に協力してくれた。ユキハに礼を言って勇太を追いかける為に走り出した。


ユキハの名を出したら、ライドホバーはすぐに借りれた。ラスベラを載せると、ライドホバーの運転席に乗る。操作は魔導機とさほど変わらない。操作球がひとつなのでちょっと感覚が変な感じだけど、すぐに操作にも慣れた。


ライドホバーはラスベラで歩いて行くより格段に早い。ユキハの心遣いに感謝しながら、勇太のいる北へと向かった。



しばらく進むと、湖が見えてきた。もう近くにエモウ軍がいるはずである。私はアムリアのチャンネルでラネルとの通信を開いた。


「ラネル、聞こえる? 渚だけど、今、近くまで来ています。合流したいから、そちらの場所を教えて」

「あっ、渚、どうしたの? ユキハから渚がこっちに来てるってさっき通信があったけど、本当に単独で来るなんて」

「ちょっと大事な用事ができてね、それより場所を教えて」

「あっ、今どこにいるの?」

「バルハ高原の北にある湖よ」

「それじゃ、もう近いわよ、そこから北に向かうと小高い丘があるから、エモウ軍は今、その丘の先にいるわ」

「了解、すぐに向かうね」

「もう少しでルジャの侵攻軍の本陣と戦闘になるから気をつけて」

「うん、わかった」

「あっ、渚──」

「なに? ラネル」

「いや、今はいいかな、ちょっと渚に話したいことがあるけど、この戦いが終わった後の方がいいかも」

ラネルは少し嬉しそうにそう言ってきた。


「何か良いことでもあった見たいね、話を聞くの楽しみにしてるよ」

「良いことって言うか……嬉しいことではあるけどね」


顔の見えない通信でも、ラネルの笑顔が浮かぶ。どんな話かわからないけど、彼女が幸せな気持ちになっているのなら私も凄く嬉しく思う。

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