第155話 敵本陣

無双モードの攻撃力は俺の想像を超えていた。腕の一振りで3〜4機の敵機が吹き飛び、体当たりするだけで敵機は全損して地面に転がる。


だけど、絶好調で敵を撃破していたが、無双モードの攻撃力の代償も想像以上に大きかった。気がつけば10分ほどの戦闘なのにもうすでに肩で息をしている。


「思ったより、疲れるな」

「敵軍の残有戦力は五割を切りました。マスターの残り体力で十分殲滅は可能です」


フェリは簡単に言うけど、残り五割ってことは、ここまでの戦闘と同じくらい疲れるってことだろ……いや、ちょっとそれは厳しいぞ。


かなり体力が心配になってきていたが、それより先に相手の方が限界を迎えていた。敵は俺のあまりの無双ぶりに恐れをなしたのか、バラバラと逃げ出し始めたのだ。誰かが逃げ出すと、他の連中もつられるように我先と逃げ始め、やがて全軍が撤退を始めた。


追いかけるのも嫌にはるほど疲れていたので、俺はそれを見送る。ちょっと息を整える為にゆっくり深呼吸していると、ジャンから言霊箱に通信が入った。


「おう、勇太、そっちは大丈夫か」

「今し方、敵軍を撤退に追いやったとこだ」

「そうか、そっちは片付いたか、それはご苦労さん。そうなるとエモウ軍の向かう目的地を変更した方がいいかもしれないな」

「どう言うことだ、こっちに来ないのか?」


「いや、さっきの戦いで捕虜にした敵兵から、ルジャ帝国の侵攻軍の本陣の場所が分かったんだよ。そいつを叩けばこの戦争は一応は終わりになりそうだからな、今からそちらに向かうことにするわ」

「そうか、俺はどうすればいいんだ」

「そうだな、こっちと合流するならバルハ高原の北にある湖辺りまで来てくれ、敵の本陣はそのさらに北にある」


「フェリ、この辺りの敵軍の動向はどんな感じだ」

「敵軍は全て撤退を始めています。どの敵兵も北に向かっているようですので、情報にある北の本陣と合流するのではないでしょうか」

「ならここに残っても仕方ないな。ジャン、わかった、北の湖で落ち合おう」


無双モードで北に向かうのは疲れそうなので、無双モードは解除する。本当はあの砦で一休みさせて欲しいところだが、遅れるとジャンに何を言われるわからないので、すぐに北へと向かうことにした。


だけど、北に向かおうとしたその瞬間、物凄い視線を砦から感じた。なんとも懐かしいような心地よい視線……気になったので砦の方を見ると、大勢の人が砦からこちらを見ていた。どうやら俺の戦いを見ていたようだ。とりあえずここから一度離れるとの意思表示で砦に向かって手を振った。


しかし、なんとも言えないあの心地良い視線の感覚はなんだったのか、砦に熱烈なファンでもできたかな。



北の湖に到着すると、すでにエモウ軍が待っていた。俺はかなり疲れていたのですぐにフガクへと帰艦する。フガクには、うまくジャンたちと合流できたようでラネルも搭乗していた。


「勇太、お疲れのようだな、2時間ほどで敵の本陣に到着するからそれまで休んでろよ」

ジャンが疲れた俺の顔を見てそう言ってくれる。


「2時間か……まあ、とりあえず何か食って寝るわ」

「そうしろ、敵がどれくらい待ち構えてるかわからないからな」


簡単な食事を食堂で取っていると、ラネルがやってきて礼を言ってきた。

「勇太さん、私の仲間を助けてありがとうございます。さっき姉から通信があって、凄く感謝していました」

「いや、助けた時にはかなり損害があったようだけど、大丈夫だったか?」

「はい、魔導機にライドキャリア、ほとんど損傷してしまいましたが、人的被害は軽微でしたので……」

「そうか、そりゃ良かったな」


話は終わったが、ラネルは俺の隣に座ってずっと飯を食っている姿を見ている。腹が減ってるなら何か食えばいいのに、遠慮してるのかな。


「そういえば、姉が勇太さんのことすごく聞いてきたんですよ、どこの誰なんだって、それほど大活躍だったみたいですね」

ラネルは思い出したように話を振ってくる。

「活躍ってほどでもないよ、強敵もいなかったし」

「強敵がいなかったって、姉の話だとヴァルキアの闇翼がいたって……」

「えっ、そうなの? いや、どの部隊のことだろ……」

ちょっと印象的な敵はいなかったので、本当にどの敵がその闇翼っていう敵だったのかわからなかった。


「闇翼はハイランダー以上のライダーで構成された部隊ですよ、それを難なく倒すって、勇太さんのルーディア値は幾つなんですか?」

「100万くらいかな」

「えっ!!?」


ラネルは心底驚いているようだった。しかし、やはり本気では信じてはいなかったようで、笑いながら、またまた冗談ばっかりと言った感じの反応を返された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る