第148話 急ぎ東へ

敵の増援部隊はなんとか片付けた。ラネルたちやエモウ軍にも被害を出さず、完全勝利を達成した。まあ、ほとんどラフシャルの用意してくれたアサルトウェポンのおかげだけど。


戦いも終わり、本隊に合流しようと現在の位置を確認する。


「やっぱり迂回しないとダメだな、まっすぐ進んだら敵の本隊のど真ん中だ。俺たちだけならいいけど、ラネルたちに連戦させるのはキツイからな」

「そうね、しかも本隊は増援部隊より多いでしょうから危険だと思う」


俺とエミナの意見も合い、迂回して本隊と合流することにした。話し合いの結果、ライドホバーや、損傷している魔導機でも進み易い東の山を回り込んで行くルートを選択した。


損傷しているテミラの魔導機の足に合わせて進んでいたので、時間はかかるが、戦場を大きく迂回していることもあり敵と遭遇することもなく順調に進む。しかし、本日中に合流するのは時間的に無理そうなのと、増援部隊との戦いでみんな疲れていることもあり、移動中に見つけた大きな洞穴で身を隠して一休みすることになった。



「豪勢だな、どうしたんだこの肉」


洞穴内は天井が高く、洞穴奥へと空気の流れもあり、外に煙が漏れないから火を起こして大きな肉の塊を焼いていた。


「エモウの人たちが森で獲ってきたのよ」

エミナがそう教えてくれる。


「それは凄いな」

「元々、我々エモウの民は狩猟民族ですので、これくらいは朝飯前です。さあ、勇太さん、遠慮せずたくさん食べてください」

「ありがとう」

俺は礼を言って取り分けられた肉にかぶりついた。捌いたばっかりだからか、少し野性味のある臭みはあるが、ジューシーでかなり美味い。


エモウの人たちからは酒も勧められたがそれは丁重にお断りした。エモウの人は戦場でも酒を飲むことが普通だそうで、敵が攻めてきたらどうするのだと思うほど豪快に飲み明かしている。一方、テミラの人は真逆で、勤務中だと言うことで酒を一切口にしようとはしなかった。お国柄というやつだな、近くの国同士なのにここまで文化で違いが出るんだと感心する。


「ラネルはお酒は飲まないのか」

俺はアムリアの人はどうかと気になったのでそう聞いた。ラネルは急に俺に話しかけられて驚いたのか少しオドオドとしながら答える。

「えっ、えっと……普段は少し飲むけど、今は戦場だから……でも……この戦いが終わったら……えっと……勇太さんと一緒に祝杯をあげられたらいいかなと思ってる……」

俺は酒が好きじゃないと言いたかったけど、多分、お酒云々は関係なく、一緒に頑張ってこの戦いに勝利しようという意味だろう、俺は彼女の言葉を尊重してこう返事した。

「そうだな、一緒に祝杯をあげよう」


俺がそう言うと、ラネルはなぜか顔を真っ赤にして俯いた。


あの大きな肉の塊は、肉好きのナナミの活躍もあり全て平らげられた。お腹も膨れたし、あとは体を休める為に少し仮眠をとる──



どれくらい寝たか、妙な気配を感じて飛び起きた。見ると、ラネルが俺の顔を覗き込むように立っていた。


「あっ、ごめんなさい、起こしてしまって……」

「いや、大丈夫、もう起きないとな。それより何かあったのか」

「実はバルハ高原にいる姉から連絡があって、至急にエモウ軍に確認して欲しいことができてしまって」

切羽詰まったようなラネルの表情を見ると、急ぎだと言うのがわかる。

「わかった、俺のアルレオで通信しよう」


アルレオに乗り込むと、フガクとの通信を開いた。

「こちら勇太、ジャン、いるか?」

「おっ、勇太か、増援部隊の件、ご苦労だったな」

「それはいいんだけど、ラネルから話があるそうだ」

「アムリアのラネルです。すみません、エモウ軍の戦況はどのような感じでしょうか……実はバルハ高原での戦いがかなり危険な状況でして、できれば救援をお願いしたいと……」

「なるほどな、こっちは優勢も優勢、今日中にはカタつくと思うぜ。救援要請は了解した。だけどエモウ軍全軍を向かわせるのはまだ時間がかかるから、急ぎなんだったら先に勇太を向かわせよう」

ジャンは俺の許可無しに簡単にそう決断する。確かに緊急であるのなら俺一人で先に行った方が早いのは間違い無いので賛成する。


「そうだな、わかった。そっちに戻っても活躍する場は無くなってそうだから、俺は先にそのバルハ高原に向かうことにするよ」

「勇太さん一人にそんな……わっ、私も一緒に!」

「いや、急ぎなら俺一人で行った方が早い。ラネルはエミナやエモウ軍と一緒に来てくれ」

「だけど……」

「いいから任せて、早く行ってラネルの仲間を助けないとな」


俺一人と他に人がいるのでは移動速度が三倍は違う、なぜか一緒に行きたがるラネルを説得すると、すぐにバルハ高原に向かう準備をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る