第147話 バルハ高原/渚

ザーフラクトの旗艦ライドキャリアを巨大な岩で押しつぶし、おそらくその艦に乗っていたザーフラクトの王様、アルパ王を倒したと思われる。


大将を倒されたザーフラクト軍は、すぐに撤退を開始した。ゾロゾロときた道を戻っていくザーフラクト軍を見て、ユキハが安心したようの表情でこう言う。


「これでしばらくはザーフラクト軍は動けなくなるわね」

「でも、まだあんなに敵が残ってるし、明日にでも戻ってきて攻撃を再開したりする可能性あるんじゃないの?」

「それはないわ、普通の軍の司令官が倒されたんじゃないのよ。王国にとって王様が居なくなるってのは大事件なの、しばらくは国内で色々面倒な問題を処理しなければいけなくなるから、戦争なんてしている暇はないわね」

「へぇ〜そうなんだ」



マジュニさんの考えもユキハと同じで、しばらくはザーフラクトの動きはなくなると予想していた。

「ザーフラクト軍を退けたことにより、ここ、ルザン山脈南からの侵攻の脅威は激減しただろう。しかし、テミラが脅威にさらされているのは変わらない、先ほどベダ卿から戦況の連絡があったが、バルハ高原での防衛戦が、かなり劣勢に追い込まれているそうだ」

「ルザン山脈からの侵攻の脅威は少なくなったのならバルハ高原へ援軍に向かうべきかも、聖都が陥落したら元も子もないわ」

「私もそれを考えていた。ここの守りは少数でも構わないだろう。ユキハ、渚、ジハード、デルファンは、軍を率いてバルハ高原へ向かってくれ」


ルザン山脈の砦には、マジュニさんが魔導機10機ほどの戦力とともに残ることになり、私たちはバルハ高原へと、テミラ軍の援軍として向かうことになった。



私たちがバルハ高原に到着した時にはテミラの戦力は半数ほどにまで減少していた。それでも倍以上の敵に対してよく戦っていたと思う。


「ベダ卿、ザーフラクトのアルパ王を討ったことにより、ルザン山脈南からの侵攻の可能性は低くなり、こちらの援軍に参りました」

ユキハがベダ卿にそう伝える。ベダ卿は劣勢の心労からか、かなり窶れているように見える。


「すまない……もしアムリア軍が来てくれなかったら、明日にもここは落ちていただろう」


バルハ高原に展開する敵軍は、ルジャ帝国軍と、東部諸国連合の連合軍で、その数は魔導機500機以上と圧倒的であった。すでにテミラ軍は半数の戦力を失い、私たちアムリア軍と合流してもその戦力は魔導機150機とかなり分の悪い戦況であった。


このままでは敗北は時間の問題である、ユキハは同盟国であるエモウ軍の状況を確認した。最悪、少しでもいいので、こちらに戦力を裂けないかの確認であった。


「ラネル、エモウ軍の戦況はどんな感じなの」

「エモウ軍は優勢に戦ってるみたいよ」

「みたいって、ラネル、あなたエモウ軍と合流したんじゃないの?」

「正確にはまだエモウ軍の本隊とは合流してないの、別働隊と行動を共にしていて、本隊とも合流しようと思ってるけど、色々あってね」

「まあ、あなたが無事ならいいのだけど……話は変わるけどバルハ高原での戦いがかなり劣勢なの、エモウ軍に余裕があるのなら、こちらに援軍を送ってもらえないか話してもらえないからしら」

「バルハ高原って、ルザン山脈はどうしたの?」

「そっちはザーフラクト軍を退けたから大丈夫、お父さんが残って守ってるわ」

「わかった、バルハ高原に援軍を送って貰えるようにエモウ軍に話してみる」


同盟国のエモウ軍の援軍を期待するとして、それまでは今の現状で持ち堪える必要がある。どう守るか話し合いをすることになった。


「今、この丘上にある砦を死守できているので、なんとか戦線を保っていられるが、ここを取られたらもう為す術がない」

地図のある地点を示しながらベダ卿が説明してくれる。ユキハがウンウンと頷きながら聞いている。


「そうなると、いかにその丘上の砦を守るかが重要になるわね……わかりました、アムリア軍はその砦の救援に向かいましょう」

何かを決断したようにユキハが言うと、ベダ卿は安心したのかホッと一息吐いて礼を言ってきた。


「そうしてもらえると助かる。しかし、敵も砦の重要性を十分、理解しているようで攻撃がどんどん激しくなっている。厳しい戦いになるかと思うがよろしく頼む」


砦は6門のバリスタと、30機の魔導機で守りを固めていた。救援にきた私たちアムリア軍と合わせると魔導機80機とライドキャリア4隻の戦力になる。敵の攻撃がどれくらいの規模まで拡大するかわからないけど、そう簡単には落とされないと、私もユキハも考えていた。

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