第146話 落石/渚
巨大な岩を壊したり動かしたりするのは至難の技だろう。だけど、巨大な岩を支えている下の小さな岩とかなら破壊できるんじゃないかと考えていた。小さなバランスの崩れは、大きな結果を生む事がある、あの巨大な岩なら、少しバランスを崩してやるだけで、自分の重みで下に転がり出すだろう。
巨大岩の落石作戦は、敵に気付かれてライドキャリアを移動されては達成できなくなる為に少人数で行う必要があった。
「岩の破壊はユキハと渚に任せて、その間にジハードとデルファンは敵の注意を引く為に攻撃を激しくおこなってくれ」
マジュニさんの言葉に、ジハードが自信満々で言う。
「任せてくれ、岩なんかに頼らなくても敵軍を蹴散らしてやるよ」
自分の国の王様に言う言葉遣いではないと思うけど、マジュニさんは気にしていないようだ。
私とユキハは、敵に見つからないように、死角から巨大な岩がある渓谷の尾根へと登っていった。それと同時に、ジハードとデルファンに率いられたアムリア軍の敵の注意を引くための派手な攻撃が始まる。
巨大な岩の近くまできた時、不意に気配を感じる。そして身を隠す暇もなく、反対側からな登ってきた敵魔導機小隊と鉢合わせした。
「敵! しまったわ、作戦に気づかれたかしら!」
ユキハはそう言うが、作戦に気づかれたなら敵は旗艦のライドキャリアを移動させるはずである。しかし、ピンク色の派手なライドキャリアは動く気配すらない。
「いえ、作戦には気づいてないはずよ! とにかく敵部隊を倒しましょう!」
こちらから攻撃を仕掛けるより先に、敵の魔導機が動いた。短めの剣を手に持って構えると、急ぎ足でこちらへ接近してきた。
私は太刀を抜いて敵を迎え撃つ。敵の数は六機、いずれも軽装で、線が細く、身のこなしが軽そうな魔導機で、パワーはなさそうだけど動きは早かった。
一機目が、刃を下に握りしめ、叩きつけるように短刀で頭部を狙って攻撃してきた。私は体を捻るようにそれを避けると、その敵機の脇腹あたりから太刀を振り上げるように斬り裂き、首上を切り飛ばした。さらに間髪入れずに二機目が正面から、腰にしっかり短刀を持った状態で、体当たりするようにラスベラの腹部を狙って突き刺してきた。その刃がラスベラに届く前に、太刀を水平に振り切り、頭部を吹き飛ばす。
三機目と四機目は前の二機がやられたのを見て、攻撃が慎重になった。それを見た私は、自ら踏み込んでその二機に近づくと、左手の掌底で一機を吹き飛ばし、もう一機を太刀を斜めに振り下ろし、肩から腰にかけて真っ二つに両断した。連続した動きで、掌底で吹き飛ばした敵機にも太刀を突き刺しとどめを刺した。
残りの二機はユキハのエウアールに襲いかかっていた。ユキハのエウアールはフレイルという、棍棒の先に鎖で鉄球が繋がれた形の変わった武器を装備していた。ユキハはフレイルを思いっきり叩きつけるように振り、刺々の痛そうな鉄球を敵機の顔面に打ち当てた。敵機の顔面はグニャりとへこみ、プシュプシュと音と白い蒸気を吐き出して後ろに倒れる。
生き残った最後の一機が逃げようとする。私は素早く敵機の後ろに回り込み、逃げようとする敵を押し倒し、太刀で頭部を破壊した。
「片付いたわね、さっさと岩を落としましょう」
確かに急ぐ必要があった。下で仲間が戦っているが、数ではかなり劣勢な事もあり状況は思わしくない。このままでは多くの被害がでてしまう。
巨大な岩の下をじっと見つめる。どの岩を破壊すればうまく巨大岩が落ちてくれるか……
合気道では相手の体重移動や、力の掛かり具合なども読み、それを最大限に生かして技をかけたりする。私は同じ要領で乱雑に並ぶ岩を見つめて、的確なウィークポイントを見極めた。
「ユキハ、あの岩を壊すわよ」
ユキハは私の言葉に頷くと、フレイルを構えた。私も太刀を構えて攻撃の準備をする。そして合図とともに、二人同時に岩に思いっきり打撃を加えた。一撃目では破壊に至らず、ヒビが入っただけだ、私たちは続けてもう一撃を岩に放つ──バキッと乾いた音がして、狙った岩は崩れ壊れた。
「よし、離れましょう」
そこにいては私たちも巨大岩の落下に巻き込まれてしまう、すぐに離脱した。
しばらくは変化はなかったが、崩れた岩の周りが、少しづつずれるように噛み合わせが崩れていき、やがて雪崩のように滑るように崩壊する。巨大岩もそんな崩壊の流れに飲まれるようにゆっくりと重力に引かれて下へ落ちていく。
そこまでくると敵も気がついたのか慌ててライドキャリアを動かそうとするが、それを回避するほどの急発進する事ができるはずもなく、巨大岩はピンクのライドキャリアを直撃する。ライドキャリアは真っ二つに折れ曲がるように押しつぶされた。
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