第145話 砦の防衛戦/渚

ルザン山脈南の渓谷──この辺りでは唯一、ライドキャリアが通行可能な道で、テミラの要所となっている。


渓谷には小さな砦が作られていて、そこに私たちアムリア軍は布陣していた。


「お父さん、きたみたいよ」

双眼鏡で遠くを見ていたユキハがそう報告する。


「ほう、ここを担当するのはアルパ王率いるザーフラクト軍か」


マジュニさんがどうして攻めてきた軍が一眼でアルパ王だとわかったかと言うと、敵軍の旗艦が派手なピンク色だったからだった。


「それにしてもあいも変わらず趣味の悪いライドキャリアだな」

「見た目の趣味は悪いけど、攻撃性能は侮れないわよ、強力な長距離バリスタを5門も備えてるからね」

「確かにな、油断はできぬな」


敵が砦に接近するのを見て、ユキハが味方に指示を出す。

「全軍、戦闘準備! 配置について!」


砦と、渓谷の上にアムリア軍の魔導機が展開する。配置についた魔導機は全て、アローを装備していた。砦の防衛戦を想定して、急いで準備した物だ。


私も砦の上から弓を構えた。高校では弓道部に所属しており、弓の腕には自信がある。魔導機に乗っていても弓を引く感覚はそれほど変わらないし、行けそうな気がしていた。


六隻のライドキャリアが砦に近づいてくる。敵の魔導機はそのライドキャリアを盾にするように、隠れながら近づいてきている、こちらの攻撃を警戒しているようだ。


「矢を射よ!」


ユキハの号令により、砦から一斉に矢が放たれた。ライドキャリアの影に隠れて身を隠しているが、渓谷の真上から放たれた矢はライドキャリアを越えて敵の魔導機部隊に襲いかかる。ガンッガンッと矢が命中する音が聞こえてきて、魔導機が破壊される爆発音も響いている。


敵も黙って攻撃を受けていない、ライドキャリアのバリスタの砲門が一斉に放たれたのを合図に、敵魔導機部隊は砦の城壁目指して駆け出してきた。


敵が迫ってくるのを見て、アムリア軍の弓の攻撃も激しくなる。砦の城壁はそれほど強固ではないので、バリスタの攻撃や敵の魔導機の攻撃で壊され、このままでは破壊されて砦内に侵入されてしまいそうだった。


「渚! 出撃して敵の前衛部隊を叩くぞ!」

ジハードがそう声をかけてくる。私は敵軍に向かって射っていた弓を置いて、太刀に持ち替えた。


出撃したアムリア軍の魔導機部隊は20機、砦の城壁に取り付いている敵魔導機は50機、上からは仲間の魔導機の弓の援護もあるので数では劣勢だが、なんとか戦えそうであった。


私とジハード、それにデルファンは一番槍を競うように敵部隊に攻撃を仕掛けた。壁を壊すのに夢中の敵軍に対して、容赦無く太刀を振るった。一つの踏み込みで、太刀を三度振り、敵機二機に対して、三撃を浴びせて倒し、二つ目の踏み込みで太刀を四度振り、四機の敵機の頭部を飛ばした。


よく、合気道には先制攻撃がないと言われるが、それは間違いである。相手の攻撃の兆しを潰す為には積極的に攻撃を仕掛け、勝機と見るならそのまま一撃でとどめを刺すのも厭わない。あくまでも護身術ではあるが、戦いに勝利することによって身を守ると言う考えは大前提にある。特に私は攻撃的で、師匠である父に怒られたものだ。だけど、仲間や自分を守る為には躊躇してはいけない──それが戦いの鉄則だと考えていた。


十歩も踏み込むと、ジハードやデルフェン、そして出撃した仲間たちの力もあり、50機いた敵機の大半は倒していた。


「よしいいぞ、敵に囲まれる前に引こう!」


砦の外に長居するのは危険だ。私たちは目的を達成してすぐに砦の中へと撤退した。


城壁に近づいた部隊が全滅したことにより、敵軍は不用意に接近することができなくなった。しかし、その分ライドキャリアのバリスタの攻撃は激しくなり、砦からのアムリア軍の攻撃との激しい撃ち合いが始まった。


「敵のライドキャリアの装甲は、アローや砦のバリスタでは貫けないな」

「だけど、こちらの砦の城壁はダメージが蓄積されてるからフェアーじゃないわね」

ユキハが崩れゆく城壁を見てそう嘆いた。


「このままだと城壁を突破されるのも時間の問題だな」

マジュニさんがそう寂しく呟く。どうにかしないと城壁を突破されてしまう。そうなると数で劣るアムリア軍は圧倒的に不利になってしまうだろう。


「あのピンクのライドキャリアって敵軍の王様が乗っているんですよね」

「うん? まあ、そうだが……それがどうしたんだ」

「いえ、あれを倒せば敵軍は撤退するんじゃないかと思って……」

「確かにそうだが、どうやって倒すつもりなんだ」

「あれが崩れてきたら、ピンクのライドキャリアは一溜まりもないかと思うんだけど」

私が見たのは渓谷の上にある、大きな岩の塊だった。それを見たユキハとマジュニさんもそれに同意した。

「確かにあれが落ちてきたら一溜りもないだろうが、あの大きさの岩をどうやって落とすつもりだ」


「私に考えがあります」

そう言うと、二人は興味津々で話を聞く体制になった。

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