第141話 ヴァルキア帝国/蓮

ハイランダーのみで構成された特殊魔導機部隊、『闇翼』のメンバーとなってもうどれくらいの月日が経過しただろうか──あの妙なオークションが遥か昔のように感じる。


ヴァルキア帝国は、長く続くリュベル王国との紛争を優位に進めるべく、国力の増強を促進していた。ライダーや魔導機増やすだけではなく、外交や裏での密約によって味方となる勢力の拡大を狙っていた。


ヴァルキア帝国の皇帝陛下の甥、ミューダと、ルジャ帝国のナトフ姫が政略的な結婚を行ったことにより、ヴァルキアとルジャ、その関係は大きく近づいた。ルジャ帝国の帝王が亡くなった後は、ヴァルキア帝国の強烈な外交圧力と、有力後継者たちの突然の死により、ミューダがルジャ帝国の帝王に即位する。


帝王ミューダは昔から皇帝陛下を崇拝していることもあり、ルジャ帝国はヴァルキアにより意のままに操られる属国に変貌した。


これまで敵対するリュベル王国との緊張の中、実行することができなかった東部制圧を、ルジャ帝国に任せることにより可能となり、秘密裏にそれは進められた。物資などがルジャに支援され、軍事力は急激に増強された。そして準備が整い、いよいよ計画は実行される。


東部制圧の障害となるのは東部諸国連合とエモウ王国の二つの勢力だと目されていた。エモウ王国は強兵で知られ、さらにエモウ王は東部でも随一の切れ者と評価が高かった。そんな事情もあり、まずは御し易い東部諸国連合を狙う。


予定通り、東部諸国連合のほとんどがヴァルキアの威光により、ルジャ帝国の傘下へ入ることになった。残るは東部諸国連合の盟主であるテミラと、妙な正義感があり、従属を拒否すると目されたアムリアだけである。残念だがこの二つの国は近々大陸から姿を消すだろう。ヴァルキア帝国からの支援を受けたルジャ帝国が武力侵攻を開始したからである。


リュベル王国の目もあり、ヴァルキア軍による本格的な参戦は難しいが、少数での援軍は可能と判断され、甥っ子思いの皇帝陛下の命により俺たち『闇翼』がルジャ帝国を支援する為にテミラ攻略に参戦することになった。



「テミラのような小さな国を攻略するのに、俺たち闇翼が出る必要があるのかね」

テミラ攻略の任務を聞いた同僚のヘンケルが愚痴を言う。


「テミラだけなら問題ないが、エモウ王国も動き出したとの情報が入ったんだ。エモウ軍は強いらしいぞ」

同じく同僚であるマーダーがそう答える。


「それでも俺たち闇翼の敵じゃないだろうよ、ハイランダーのみ20名の精鋭部隊だぞ、ぶっちゃけ俺たちだけでテミラなんて攻略できる」

「ふっ、それは否定しないがな」


二人とも自分の所属する闇翼に絶対の自信を持っている。ヴァルキアには闇翼より上位のさらに強力な部隊が存在するが、大陸の中でも屈指の部隊だと言う自負は皆にあった。


闇翼は全員、同じタイプの魔導機を愛用している。イカロスと呼ばれる魔導機で、それぞれ持っている武器や、カラーリングなどは自分好みにカスタマイズしているが中身はほぼ同じである。


「蓮、前から気になってたんだけど、お前のイカロスは色が派手だよな」

ヘンケルが染み染みとそう言ってくる。確かに俺のイカロスはカナリアイエローと、闇翼の名からは程遠く派手な色だ。まあ、これは仕方ない、なにしろ俺はサッカーのブラジル代表チームが大好きだからだ。



闇翼のライドキャリア『ツクバ』に搭乗すると、ミーティングルームで隊長から作戦の詳細が説明された。


「テミラへの侵攻作戦はあくまでもルジャ帝国主導で行われる。ゆえに我々には具体的な役割は指定されておらず、自由に動き、敵軍の戦力を削ることだけに注力することになる」


「自由なら敵の首都を一気に攻めませんか、その方が手っ取り早い」

「そうもいかん、そんな派手な動きをすればリュベルに気づかれる恐れがある。この戦いにリュベルが介入してきたらそれこそ厄介なことなるのはお前の空っぽの頭でも理解できるだろう」

そう隊長に言われてヘンケルは押し黙る。


「あくまでも地味に、しかし、確実に敵の戦力を叩く、それが今回の任務だ。具体的には大規模な戦闘が予想されるバルハ高原の戦いで、ルジャ軍に紛れて敵軍を叩いていくつもりだ」


全員が今回の任務が簡単でつまらないものになると感じていた。それは俺も例外ではなく、まるでサッカー部の時におこなっていた、大きな大会前にやる調整の為の弱小校との練習試合のように感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る