第140話 迂回

すでに敵がかなりの数が侵攻してきているようで、大部隊を回避しながら迂回しても、敵の小隊などに遭遇する。


「静かに、敵の部隊だ」


本隊に連絡されたら厄介だ。俺は素早く動いて、通信される前に敵部隊を殲滅させる。五機の敵部隊を10秒ほどで片付けると、ラネル王女やテミラ兵が感心したように称賛する。


「これほどの実力者は出会ったことがない、エモウ軍は強兵と聞くがこれほどとは……」

「あっ、俺は正確にはエモウ軍に雇われた傭兵だよ、無双鉄騎団って言うんだ」


名を売る為にそう教えた。


大きく迂回していることもあり、北西の山まではまだまだ距離がある。日も暮れてきたこともあり、少し休憩することになった。身を隠せて、周りがよく見える山陰で、見張りを立てて休むことにした。念の為、フェリに何か近づいたら教えてくれるように頼んでおいた。


軽い偵察のつもりだったので、俺は携帯食を持ってきていなかったが、テミラ軍が十分な食料を持っていた。それを分けて貰い腹を満たす。その時、生ラネル王女と初めて対面した。ラネル王女は輝くほど美しい金髪の、可愛らしいお嬢さんだった。


彼女は携帯食を貪る俺に恐る恐る近づいてきた。そして食べてる様子をジッと見つめている。用があるなら話しかければいいのに……


「ラネル王女だよね、君は食べないのか?」

たまらなくなり、こちらからそう声をかけた。

「え、えっと、お腹空いてないんです」

「それでも食べれる時に食べておいた方がいいぞ、この後、何があるかわからないんだから」

「そ、そうですよね! それじゃ、一緒に食べさせて貰っていいですか……」

どうやら一人で食事するのが寂しいタイプのようだ、断る理由もないのでそれを了承する。


食事をしながらラネル王女が聞いてきた。

「あの……お名前を聞いてもいいですか」

「あっ、俺は勇太」

「勇太さん……素敵な名前ですね」

「えっ、そうか? そんなの言われたの初めてだよ」

ラネル王女はなぜかモジモジしながらさらに聞いてくる。

「それで、勇太さんは……その……ご結婚とかは……」

「え! そんな歳に見える? まだ17なんだけど……」

「17でしたらもう成人されてますし、決まった相手とかは……」


あっ、そうか、この世界は16でもう成人だったっけ。

「いや、そんな予定も相手もいないよ」

好きな人はいるけどな、白雪結衣、どうしてるかな……会いたいな……それについでだけど渚もどうしてるだろう、好きな人を思い浮かべてあいつを思い出すのも不本意ではあるが、幼馴染として渚の事も心配ではあるな。


「決まった相手はいないのですね! そうですか〜♪」

なぜかラネル王女はすごく嬉しそうだ。俺が既婚者かどうか、テミラの人と賭けでもしていたのだろうか。


「それより、ラネル王女は決まった人はいないのか」

「あの……王女は必要ありません、ラネルと呼んでください」

「えっと、それではラネル、君はどうなんだ、決まった相手はいないのか」

聞いて欲しそうだったのでそう聞き返す。

「決まった相手はいないですけど……その……思い人は……」

「そうか、その思い人とうまくいくといいな」

「はい!」


ラネルは元気よく返事をする。ちょっと変わった子だな……リンネカルロもたまに変になるけど、この世界の王族ってみんなこんな感じなんだろうか。



フェリに周りの警戒をお願いして、俺はアルレオの中で仮眠をとる。目を閉じて休もうとするが、さっきラネルとあんな話をして白雪と渚のことを考えたからだろうか、二人との思い出が溢れてきて眠れなくなった。


白雪はしっかり者で何をやっても優秀だから、こんな世界でも上手くやっているイメージしかないけど、渚はちゃんとしてそうで抜けたところがあるからな……心配の度合いでは渚の方が強いかもしれない。


そうだ、もう少し落ち着いたら二人を探して会いに行ってみよう。どうだろう、二人とも俺が会いにきたら少しは喜んでくれるかな……そんなことを考えているうちに、いつの間にか夢の中へとフェードインしていた──

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