第132話 提案
エモウ王国と正式に契約して、仕事の内容を確認することになった。
「正直、すぐに何かをしてくれという事はないんだよ」
「ほう、それなのに高い金出して傭兵なんて雇ったのか」
「軍備を準備するほどの時間がない間に、差し迫った危機が迫っているのは事実だが、それも我が国だけなら傭兵を雇う必要もなかったのだがな、どうも足手まとい……いや、お荷物の同盟国ができた事で、援軍要請に応える為の機動部隊が必要になったんだよ」
足手まといをお荷物に言い直したけど、あまり意味は変わらないよな、それほど厄介な味方ができたってことかな。
「わかった。それで差し迫った危機ってのはなんなんだ」
「隣国のルジャ帝国……いや、その後ろにいる大国、ヴァルキア帝国の侵攻への備えだ」
「ヴァルキア帝国だと! 失礼だが、あんな大国が攻めてきたら、エモウ王国なんて一溜まりもないだろ、大丈夫なのか」
「ヴァルキア帝国はあくまでもルジャ帝国を裏で操っているに過ぎない。隣国の大国、リュベル王国との睨み合いが続いていることもあり、本格的に戦力をこちらに向ける事はないよ。ただ、ルジャ帝国への支援は大規模になってきていて、近々、ルジャ帝国による全面侵攻が開始するのは間違いないだろう」
「なら、構わないが、ヴァルキアなんか出てきたらさすがに俺たちは逃げ出すからな」
「エモウと心中してくれなんて頼みはしないよ、その時は逃げて貰って問題ない」
ジャンが逃げ出すと言ったヴァルキア帝国だけど、後で聞いた話だと、エミナの母国であるエリシア帝国と、話に出たヴァルキア帝国、それにリュベル王国の三国が、大陸三大強国と呼ばれていて飛び抜けた軍事力を持つ大国らしい。なんでも魔導機を数万体所有しているとか……
「ルジャ帝国が敵ってのは決まりなんだよな。だったら攻めてくるのを待ってないで、こちらから攻めるってのはどうだ、先制攻撃の方が有利だし効果的だ」
ジャンはさっさと問題を終わらせて巨獣の巣に行きたいのか、エモウ王にそう助言する。
「確かにそうだが、ヴァルキアからの支援でルジャには1000機近い魔導機を保有しているとの情報がある、まともにぶつかったら勝ち目はないぞ」
「いや、本格的な戦争をしようって話じゃねえよ、敵の戦力を削ぐのと、ちょっとした嫌がらせだな」
「なるほどな、確かに敵の準備を遅らせることもできそうだな」
「先制攻撃に叩いて、効果的な敵の施設とかあるのか」
「ベルンの前線基地だな。あそこを攻められたらかなり嫌だろう」
「よし、ならそこに攻撃を仕掛けよう。無双鉄騎団が主力で出てやるから準備しろ」
「いやに積極的だな」
「後々楽したいだけだ、どうせ戦争になるなら最初に一撃を与えておいた方がいいだろ」
エモウ王も攻撃のメリットの方が大きいと考えたのか、最終的には先制攻撃を容認した。
ルジャ帝国、ベルン前線基地を攻撃するのは無双鉄騎団を主力とした、エモウ軍、魔導機100機。ベルン前線基地に駐屯するルジャ軍は魔導機200機。数は敵軍の方が多いが、殲滅が目的ではなく、施設の破壊と戦力を削ぐのが目的なので、奇襲による短期戦闘であればこの戦力で十分であった。
「見ろ、エモウ軍にも戦艦タイプのライドキャリアがいるぞ」
並走するエモウ軍のライドキャリア船隊を見て、ジャンがそう言う。
「『エチゴ』って名らしいよ、エモウ軍の旗艦らしいけど、最近は戦艦タイプのライドキャリアも増えてきたね」
「そういえば俺たちのライドキャリアには名前がないな」
俺は何気なくそう言ったのだが、どうやらみんなそれを思っていたらしく、名前を付けようと空気が急激に高まった。
「『花と小鳥』がいいと思う!」
ナナミがそう提案するがジャンが一蹴する。
「却下だ、傭兵団の旗艦の名前じゃねえだろ!」
「じゃあ、ジャンはどんな名前がいいのよ!」
「そうだな、『煉獄号』ってのはどうだ、かっこいいだろ!」
「却下! 可愛くない!」
「だから傭兵の旗艦が可愛い必要はねえんだよ!」
「私、『飛天丸』がいい」
「あっ、ファルマの可愛いね」
「ナナミのに比べたら100倍いいが、いまいちだな」
もう、なんでもいいだろうに……そう思いながらも、頭に浮かんだ単語を行ってみた。
「『フガク』ってどうかな」
「フガク……フガクってどう言う意味?」
「俺の母国の一番高い山の名前だ。それくらい高みを目指してって意味を込めてだな……」
適当にそう言ったのだが、意外にもウケはよかった。
「いいじゃねえか、高みを目指すね……俺はフガクに一票だ」
「私も勇太の案に賛成! 煉獄号なんて絶対ありえないもん!」
「私も勇太が言うのなら……」
「いいわね、響きも良いし私もフガクに一票入れるわ」
「別にライドキャリアの名前なんてなんでもいいですわ、勇太の案で決めていいんじゃないですの」
と、賛成多数で可決された。どうも和名の響きはみんな嫌いじゃないみたいだ。
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