第131話 疑念/渚
待ち伏せによる攻撃を退け、私たちは城へと戻ってきた。国境の警備を固めて、今後の対応を考えることになった。
「テミラが東部諸国連合を裏切っているって本当なの?」
ラネルの考えをユキハに伝えると、驚きの反応をする。
「神聖国テミラが怪しいのは間違いない。だけど、本人にそれを聞くわけにもいかないしね……」
「本人に聞けないなら誰か他の人に聞いたらどう?」
ふとそう思い、私が無責任な提案をすると、ラネルは少し考えてこう言った。
「そうね、確かにその通りだわ。他の連合国に探りを入れましょう」
「だけど、探りを入れた国がすでに東部諸国連合を裏切ってたら敵にこちらの動きを悟られるんじゃないのか」
マジュニさんがそう指摘する。
「そう、探りを入れる国は慎重に選ばないといけないわね。テミラとあまり仲が良くなく、東部諸国連合の中心的国で、情報をたくさん持ってそうな国……」
「その条件だと、ザーフラクトのアルパ王しかいないな」
「私もそう思ってたわ、ベダ卿とアルパ王はあまり相性が良くないし、アルパ王は東部諸国連合の国々と関係が深く、情報を得やすい」
「それに今思えば、連合を脱退した4カ国、偶然かザーフラクトとあまり仲が良くない国ばかりだな」
「状況的にはテミラ派とザーフラクト派で分裂の危機ってところね」
「アムリアはどっち派なの?」
疑問に思いそう聞いた。
「うちのお父さんがそんな派閥に興味あると思う? 完全に中立ってとこね、だからこそ、どちらの情報も入りにくいのよね」
「小さい国同士、仲良くすればいいのにな、そんな小さな集まりで、利権や地位にこだわり、少しでも優位になりたいと争う。嘆かわしいことだ」
確かにマジュニさんはあまりそう言う派閥争いなどに興味なさそうだ、みんなマジュニさんみたいな王様だったら争いも起きないのにな……
「それじゃ、ザーフラクトのアルパ王と直回線を開きましょう」
東部諸国連合には、連合内の王同士のホットラインが存在するらしい。それを使って直接アルパ王に話を聞くことになった。
「マジュニ殿、どのような用件かな」
「アルパ王、単刀直入にお話しします。どうやらテミラが東部諸国連合を裏切っているようなのです」
「ほほう、情報網の薄いアムリアにしては、よくその結論に辿り着きましたな」
「そっ、それでは、アルパ王はすでにわかっていたのですか?!」
「東部諸国連合を脱退した4カ国の顔ぶれ、最近のテミラの軍備拡大、それにルジャ帝国との秘密貿易の存在……その結論が何を意味するか……」
「どうするつもりですかなアルパ王」
「安心するが良い、こうなることは予測できておった。その為にザーフラクトは数年前より密かに魔導機とライダーを集め、いつか裏切るであろうテミラに対抗する戦力を用意していたのだ」
「それは心強い。しかし、力尽くで解決するのは好ましくありませんな、なんとか対話で解決できませんか」
「テミラが東部諸国連合を裏切ってどうするつもりかお分かりか! 奴らは、この東部にルジャ帝国を中心とした新たな巨大連合国を作ろうとしているのだ。協力したテミラなどは対等な同盟国として生き残り、他の東部諸国連合の国々は属国に成り果てるのだぞ! そんな横暴許せるか!」
「なんと……そんな計画が進んでいたのか……」
「そうだ、だから戦うしかない、アムリアも覚悟しておいた方が良いだろう」
やはり戦争は避けられそうにないのかな……
アルパ王との通信を終えて、マジュニさんはため息を吐いて残念そうにこう言う。
「やはりテミラは裏切っているようだな、戦争は避けられそうにないようだ」
「いえ、お父さん、もしかしたら裏切ってるのはテミラじゃないかもしれないわ」
「おいおい、ラネル、急に考えが変わったのか? さっきまでお前が一番怪しんでいたじゃないか」
「さっきのアルパ王の話、変だと思わなかった?」
「えっ、そうだったか?」
「まず、軍備を拡大していたのはテミラだけではなく、ザーフラクトも同様に魔導機とライダーを集めていたと言う事実、と言うことは私たちを襲撃した戦力を、ザーフラクトも保有していた可能性があるってことになる。テミラに対しての軍備拡大と言い訳してるけど、はたしてそれが本当なのかどうか判断できない。それよりもっと不可解なのが今後の展望まで把握している情報量の多さ、どうしてルジャ帝国を中心とした大連合国の計画の存在を知り得たか……アルパ王も疑った方がいいかもしれないわ」
「な……なるほどな、いや、できの良い娘を持って良かったよ」
しかし、困ったことにテミラ、ザーフラクトの両国とも怪しいと言う結論になってしまった。どちらも信用できないこの状況、どうしたらいいのだろうか……
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