第123話 達人/渚
「ラネル! ダメだ、後方の敵の数が多い! それほど持たないぞ!」
ジハードからの通信を聞いて、私はラネルにこう提案した。
「ラネル、ここは私に任せてあなたも後方に行って」
「渚、いくらあなたでも一人でこの数を相手には……」
「大丈夫、時間を稼ぐだけなら何とかなりそうだから任せて」
特に自信があったわけではないけど、ラネルを安心して後方へ行かせる為にそう言った。
「わかった、だけど無理しないでね」
「わかってる、私も死にたくないもの」
私の心配をしながらも、ラネルは後方の援軍に向かった。
敵が一人減ったのをみた敵軍は、すぐに残り一人を倒す為に動き出した。包囲するように近づいてくる。合気道の真髄は相手の力を利用することにある。積極的に攻撃してくれた方が私にとっては戦いやすかった。
意識を集中しながら立ち位置を微妙に変える。絶妙な位置どりで、仕掛けてくる敵の数を最小限に絞り、攻撃をしてきた敵を一機づつ確実に仕留めていく。
右から攻撃してきた敵機の肩を極め、振り回して左からくる敵にぶつける。正面から槍で突いてきた敵の攻撃を前に踏み込んで避けると、槍を持つ手を掴んで突きの方向へと引っ張り槍を奪い取ると、後ろから迫っていた敵機に投げつける──投げつけられた敵機は胴部に槍が突き刺さり後ろに倒れた。槍を持っていた敵機の頭部を腕で固定して捻り破壊すると、奥から来た敵機が振り回す大型の剣の軌道を手捌きで変えて、別の敵機の首を飛ばす。仲間の首を飛ばした事で動揺したその敵の体を引っ張り、地面に引きずり倒し、地面に叩きつけた反動を利用して両腕を破壊した。
「オラァ〜〜!!」
物凄い気合いの声を発しながら、敵機が長い剣を上段に振りかぶり襲ってきた。少し立ち位置を変えるだけの最小限の動きでそれを避けると、太刀を抜いてその敵機の首元を突き刺した。首を貫かれた敵はプシュプシュと白い煙を吹き出し、ヨロヨロと後ろへ後退してそのまま崩れるように倒れた。
敵軍に動揺が広がるのが肌で感じた。どうやら今倒した敵は、切り札的な存在だったのか、部隊の隊長だったのか、敵軍の中心的な役割だったようで、明らかに敵軍の攻撃の意思が失われていくのがわかる。
私は太刀を構え、必要以上の殺気を発しながらジリジリと敵の方へと歩み寄る。完全に戦意を失いつつある敵は、私から逃げるように後ろへと下がる。
さらに殺気を拡大していく──そして「はっ!」と大きな声で気を発した。それと同時に右足を上げて、それを勢いよく地面を踏んだ。これは完全な威嚇である。意味のある行動ではないが動揺して恐怖を感じている敵には効果があったようだ。敵は慌てふためいて一目散に逃げ出した。
敵が完全に撤退したのを確認すると、私は後方のラネルたちのもとへと駆けつけた。後方から攻めてきていた敵部隊は30機ほどだろうか、ラネルたちの足元には5機の敵機が倒れている。頑張って持ち堪えているようだけど、数の差は大きいようで今にも押し込まれそうな感じであった。
私は敵部隊の側面から近づくと、太刀を横に振り一体の敵機の頭部を飛ばす。仲間を倒された怒りからか、周辺の敵が一斉にこちらに向かってくる。
「渚! 前の敵はどうしたの!?」
ラネルがそう聞いてきた。私は向かってくる敵機の攻撃を捌きながら返事をする。
「前方の敵は撤退したから大丈夫よ」
「さすがはハーフレーダー、頼りになるわね」
それから、私、ラネル、ジハード、デルファンの四人はお互いをフォローしながら敵の攻撃を防ぐ。無理をせず、時間をかけて攻撃を凌いでいると、アムリア王国側から、20機ほどの魔導機部隊が駆けつけてきた。
「みんな大丈夫! 助けにきたわよ!」
その声は国の留守を守っていたユキハだった。
敵の増援を知った敵軍は、自分たちの不利を察したのか撤退を始める。それを見てジハードが追撃しようとしたが、ラネルが制止した。
「無理に追わなくていいよ、深追いは禁物よ」
ラネルの言う通り、追い詰められて変な反撃をされると危険だ。今はみんな無事だっただけで十分だと思うべきだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます