第122話 戦乱へ/渚

東部諸国連合の勢力圏内での襲撃があったことで、この先の帰路での安全は保証されなくなった。ラネルは東部諸国連合の国々と通信をして状況を確認している。


「どうだ、ラネル、何か分かったか」

通信を終えたラネルに、マジュニさんが状況を確認する。


「いえ、やはりどの国も襲撃してきた魔導機部隊のことは把握してないみたい……」


「十機を超える魔導機部隊が勢力圏内で行動していて何も把握してないとは……ありえぬな」

デルファンがそう感想を述べると、ジハードが見解を示す。

「だとすればどこかの国が嘘を言ってるってことだな」


「やはりエモウ王が言ってたように、東部諸国連合を裏切っている国があるってことね」

「チッ、どこの国だよそれはよ!」

「そう簡単には尻尾は見せないでしょうね」


「それより襲撃がさっきの一回とは限らない、ここは早急にアムリアへ戻った方が良さそうだな」

「そうね、しかも一度目の襲撃が失敗しているから、次はもっと大規模な動きに出る可能性が高いわね」


最大限の警戒をしながら、私たちはアムリアへの帰路を急いだ。しかし、悪い予想はよく当たるもので、アムリア王国国境の手前で、大規模な敵部隊が待ち構えていた。敵は敵意を剥き出しにして、こちらに迫ってくる。


「くっ……魔導機50機はいるぞ……」


「また国家認識マークは無し、外装を偽装して所属を分からなくしてるな……」


どうやら見た目だけではどこの国の軍か分からないみたいだけど、ラネルは何かに気がついたみたいだ。


「いえ……敵は大きなミスを犯したわ……そのおかげで敵の正体が分かったわよ」

「何っ、どこだよそれは!」


「テミラ……東部諸国連合を裏切っているのは神聖国テミラよ!」


「馬鹿な、東部諸国連合の中心的な国だぞ! そんなことが……どうしてそう思うんだラネル!」

「東部諸国連合の中で、50機の魔導機を他のどの国が用意できると思う?」


「確かにそうだが、他の国からの増援の可能性もあるぞ」

「それはありえないわ、魔導機の規格が統一されすぎてるのよ。偽装されていても外郭や武器の種類を見ると、寄せ集めではなく、同一の勢力の魔導機だってのは一目瞭然ね」


「ラネル、我が娘ながら凄いな……」

「感心してないで戦闘準備よ、渚、ごめん、また戦ってもらうことになっちゃて……」

「嫌だけど仕方ないよ、何とか頑張ってみる」

「すぐにアムリア本国に援軍要請を送るから、それまで持ち堪えて、それに今回は私も出撃するから一緒に頑張ろう」

「うん」


出撃するのは私とラネル、ジハード、デルファンの四人だ。相手は50機の魔導機と、とてもじゃないけどまともにやって勝てる相手ではない。だから作戦は敵の殲滅ではなく、防御を固めて時間を稼ぎ、援軍の到着を待つ粘りの作戦であった。


「ライドキャリアを守りながら後方に下がりましょう」


敵はこちらの動きに気が付き、部隊を二つに分けて近づいてきた。短距離ではライドキャリアより魔導機の方が遥かに早い、その距離はあっという間に詰められ、強襲される。


「ジハード! デルファン! 後ろから来ている敵を抑えて! 渚は私と正面の敵を迎え撃つわよ!」


ラネルの指示でジハードとデルファンが私たちと離れて後方へと移動していく。正面からきているのは20機ほどで、私とラネルは迫りくる敵機に備えて身構える。


圧倒的な戦力差に少し胸がドキドキする。緊張する気持ちを落ち着ける為に意識を集中し始めた。


迫ってくる敵の動きが少しづつスローに見えてくる。私は頭の中で敵への対応をイメージする。最初の一機の攻撃を避け、相手の力を利用して腕を折り、二機目の敵はそこから一歩踏み出し頭部に一撃を加える、さらに肩を持って振り回し地面に押し倒す。三機目は太刀を抜き、胴で横一線で切り伏せ、体を捻り、四機目もその反動を利用して斬り伏せる。


一瞬の間に頭の中でイメージした敵への対応だが、無意識のうちにそれを実行していた。気がつけば、四体の敵機が地面に転がっていた。


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