第111話 戦いの傷痕

リンネカルロのお父さん、現メルタリア王が亡くなった──ムスヒムとの戦いが終わってすぐのことであった。


いつも気丈で高飛車なリンネカルロであるが、実の父親の死は、彼女を普通の大人しい女の子に変えるには十分の出来事だったようだ。しばらく元気なく落ち込んでいた。


すぐに王の葬式が行われ、それが終わると慌ただしくユーディンの正式な王の継承式が執り行われた。ユーディンが王となり、国内の現状が調べられるとムスヒム一派の悪事がゴロゴロと出てくるわ、出てくるわ──この出てきた悪事を理由に、ムスヒム一派の処分が次々と下されて行った。


まずはホロメル公爵、彼は領民に対する迫害と国費の私的流用、及びムスヒムの暴挙への加担の罪で、爵位剥奪、財産没収、国外追放の処分となった。一文無しで国を追い出されてあの公爵が生きていけるか疑問である。


第二王子のビルデロと第二王女のリンディルは国民の無慈悲な殺害や国費の私的流用などの罪で王族身分を剥奪され、辺境に幽閉処分となった。


宰相ブロムは自らの命を失うことで罪を償ったと言う事になり、残された家族には爵位の格下げ処分のみと言う恩赦が言い渡される。


また、オルレア将軍と言う人物は身分を全て奪われ、三十年の労働刑となった。


そして首謀者ムスヒムは──


「王族と言えど、今回の騒動の首謀者で、過去の無数の罪の悪質性を考慮すると、極刑以外に選択肢は無い、よって、ムスヒム第一王子を斬首刑とする」


その判決がでた時、リンネカルロの表情が少し曇ったのを見逃さなかった。やはり、あんな王子でも実の兄である、斬首とはあまりいい気持ちはしないのであろう。



メルタリア王国の騒動が終わり、俺たちのこの国での役目も終わりを迎えた。ジャン曰く、内戦と、ムスヒム一派の悪事のせいでこの国の財政はカツカツになっているから、ここにいても儲けにならない。なのでもっと儲かる国へ移動しようと言う事だそうだ。


「申し訳ありません、無双鉄騎団には大変な御恩を受けました、もっとお礼がしたいのですが、今のこの国の財政状態では……」


王になったユーディンがすまなそうにそう言う。


「いや、傭兵としての依頼料は貰ったし問題無いよ」


約束の依頼料は貰ったのでそれ以上は望んでなかった、それでもユーディンは何か俺たちにしたいのか二つの褒美を用意していた。


「ヴィクトゥルフを俺に? いや、あれってこの国の国宝だろ、流石に貰えないよ」


「確かにその通りです、ですからあげる訳ではなく、預かって貰いたいのです。現状、あの国宝を動かすことができるのは勇太さんだけです、王宮に骨董品として飾って置くのはもったいないですし、こうして繋がりを持つことで国の有事の際に駆けつけて貰う理由になるでしょう」


ユーディンも意外に抜かりの無い奴だな、要はヴィクトゥルフを預けるから、国が危なくなったら助けてくれよってことだな。


「わかった、じゃあ、預かるよ」


「ありがとうございます、それともう一つ、先日、ムスヒムが秘密裏に購入していた最新鋭のライドキャリアがラドルカンパニーから届きまして、代金が支払済で返品もできなく、困っていたのでこちらを引き取って貰えますか」


「最新鋭のライドキャリア! そいつはどんなもんだよ!」


ジャンがそう食いつく。


「僕はあまり詳しく無いのですが、自動装填式のバリスタを六門備えた戦艦タイプのライドキャリアだそうで、魔導機も最大十五機搭載できる大型艦だそうです」


「おぉぉ──そりゃすげえな! よし、ありがたく貰ってやる!」

「いや、ジャン、そんな高価な物貰えないって。この国の財政状況考えたら、売ってお金にした方がいいんじゃないかな」


「いえ、中古で売ってしまうと安く買い叩かれますし、このライドキャリアは速度もかなり速いですから、国の有事の際にすぐに駆けつけて貰う為の先行投資と考えています」


どうもユーディンは国に何かあった時は助けてくれってのを強調するな……どうもそれが妙に引っ掛かっていたのだけど、その後のリンネカルロとの会話で全て理解できた。

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