第110話 王子終結

クルスには逃げられてしまったが、ムスヒム本隊の戦力は俺とリンネカルロにより一掃された。残すはムスヒムの乗るライドキャリアだけである。


「ムスヒム、観念しなさい! 王位継承投票の結果を偽り、王太子であるユーディンを亡き者にしようとした暴挙、決して許されるものではありませんわ!」


ムスヒムのライドキャリアの目の前に仁王立ちになり、杖を構えたリンネカルロが外部出力音でそう言い放った。


「何を戯言を! 王位継承投票の結果は俺が勝ったではないか! 何を証拠に言っているのだ! 貴様らこそ王位継承投票の結果に納得がいかず、暴挙に出たではないか!」


しかし、嘘つきはどこまで行っても嘘付きだな、この後に及んでまだ堂々とそう言い張るその態度は、どんなことがあっても治らないだろう。


「それでは投票結果の詳細を、神々に誓ってここに公開できますか! 言ってごらんないさい! 誰が誰に投票したのですか! 投票者は9名、貴方に投票した人物の名をいいなさい!」


リンネカルロは凄い剣幕でそう捲し立てる。


「くっ……ビルデロとリンディル……あとブロムとホロメル公爵…………」


ムスヒムは少し弱い口調でそう言っていく……4名の名前を言ったところで口が止まる、そりゃそうだ、ムスヒムに投票したのはそこで終わりだからな。


「投票者は9名です、最低でもあと一人いるはずですけど、それは誰ですの!」


「うぐぐっ……」


「この戦いはユーディンの暴挙に対する戦いですわね、それではユーディン側についている、カロン公爵、レイデマルト公爵、バレルマ公爵が貴方に投票しているなんてことはあり得ませんわね、もちろん、この私も貴方に投票などしておりません、そうなると、誰が貴方に投票したのですか!」


「うっ……煩い! リヒリアだ! リヒリアが俺に投票したんだよ!」


苦し紛れに名前の出なかった最後の一人の名を叫ぶが──


「ムスヒム、嘘はいけません! 私は貴方に投票した覚えなどありませんよ」


そこにリヒリアやカロン公爵が乗るライドキャリアが近づいてきて、外部出力音でリヒリア王女本人がムスヒムの発言を訂正した。


「ぐうっ……黙れ、黙れ! そもそも王位継承の投票など無意味なんだ! 俺は第一王子だ! 俺が王になるのが当たり前なんだ! ユーディンなど貧弱な王などこの国に必要無い!」


「王位投票の結果を偽ったことを認めるのですわね」


「偽るも何も無効だ! あんなのは無効だったんだ! オレは……なっ! なんだ貴様ら! 何をする離せ! 俺は王だぞ! 庶民が気安く触るな! うぉ…………──」


何があったのかムスヒムの外部出力音が乱れる、そしてしばらくしてムスヒムとは違う別の人物が話し始めた。


「──リンネカルロ王女、私は国軍のリブラ将軍です。申し訳ありません、我々も騙されていたようです。今、逆賊、ムスヒムは拘束しました。すぐにそちらに引き渡します。また、全軍に停戦の命令を出しました、すぐに戦いは停止されます」


真実を知った兵たちがムスヒムに反旗を翻したようだ──これでようやくこの国のゴタゴタは終了しそうだ。



「おう、勇太、終わったみたいだな」

戦いが終わり、ジャンたちの乗るライドキャリアが大勢の魔導機に守られて近づいてきた。


「ジャン、そっちは大丈夫だったか」

「おうよ、無双鉄騎団の活躍でユーディンを守り切ったぜ」


無双鉄騎団の活躍を念押しする辺りがジャンらしいな。見るとみんな無事そうで安心した。


ムスヒムは捕らえられ、王宮へと連行されることになった。そこでちゃんとした裁判が行われるそうだ。


「クルスはどこ逃げたんだろうな」

「あの女はどこに行っても悪さする性悪女ですわ、ですから逃すつもりはありません、すぐに国中に手配を回して捕まえさせます」


「しかし、それを計算して、すぐに国外に逃亡しそうだな」

「……確かにそうですわね、やっぱりあの時とどめを刺しておくべきでしたわ」


あの時、ヴィクトゥルフのエーテルが漏れてなかったら絶対捕まえられたのにな……そう考えるとクルスは悪運が強いって風に考えられるか──

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