第102話 密着
敵の魔導機は逃げたから後は歩兵くらいしかいない、仲間の魔導機たちは基地内に散らばり制圧していく。
捕まえた敵兵に捕まっている味方の居場所を聞いて、俺たちはそこに向かった。
仲間たちが捕まっている場所は倉庫の建物で、建物全体が牢獄になっているようだった。牢獄を守備するのは50名ほどの兵士で、何があっても死守しろとでも命令されているのか、俺と仲間の魔導機が現れても逃げようとしない。仕方ないのでなるべく死なないように敵兵を駆逐して行った。
「リヒリア王女!」
牢獄から助け出された人物を見て、仲間の魔導機たちの歓声が上がる。見るとリヒリア王女だけではなく、レイデマルト公爵、バレルマ公爵、テセウス公子の姿も見えた。
「リヒリア姉さん、無事で良かったですわ」
「その声はリンネカルロですか、貴方こそ無事で何よりです」
姉との嬉しい再会のこの状況でも、リンネカルロはヴィクトゥルフから降りようとしない、もう基地は制圧されて安全が確保されてるのに意味不明だ。
さらに牢獄からはアーサーとエミナも助け出された。
「勇太! 私のアルテミスを探して!」
助け出されたエミナの第一声が愛機であるアルテミスの心配であった。正確にはエミナの物ではなく、無双鉄騎団から貸し出されてるだけなのだが、それを言うのはやめておこう。
「私のオーディンもこの基地にあるようなのです、勇太、このままヴィクトゥルフで捜索しましょう」
「ええっ! リンネカルロ、まだ降りないのか?」
「オーディンが見つかるまでですわ、ほら、早く、探しましょう」
そう言いながらリンネカルロは俺の腕にギュッと抱きついてくる。スペースは余裕あるだろうに、どうして密着してくるか意味不明だ。
オーディンとアルテミス、それにアーサーのセントールは思ったよりあっさりと見つかった。まあ、魔導機が格納されている場所なんて限られてるので当然の結果だけど、リンネカルロはなぜかあまり嬉しそうではなかった。
「ハッチを開くぞ、リンネカルロ」
「……もう少し、このまま基地を探索してもよろしくてよ」
「いや、何を探索するんだよ、みんな助けたし、オーディンとアルテミスも見つかっただろ、意味不明な事言ってないで、早く降りろよ」
「──まあ、仕方ないですわね……」
ぶつぶつ言いながらもなんとかリンネカルロはヴィクトゥルフから降りてくれた。そしてすぐにオーディーンに搭乗する──その後、エミナとアーサーもこの格納庫にやってきて、愛機と再会して喜んでいた。
その後、基地にあったライドキャリアを接収して臨時の指令本部にすると、主だった人物が集まって作戦会議を開いた。
「さて、ムスヒムに好き勝手やられましたけど、ここから反撃ですわ」
リンネカルロの言葉に一同が同意する。
「国軍を掌握しているムスヒムには多くの魔導機戦力がある、こちらの戦力は三公爵の私兵軍のみ、今の状況では勝てる見込みはないな……」
レイデマルト公爵がそう言うと、リンネカルロがすぐに反論した。
「いえ、それは大丈夫ですわ、こちらには伝説の魔導機ヴィクトゥルフと勇太がいます、敵がどれくらいの戦力がいても恐れる必要はありません」
「いや、伝説と言ってもたった一機ですぞ、いくらなんでもそれは……」
「ヴィクトゥルフの力は先ほど証明されました、皆さんは牢獄に捕らえられていたのでご覧になっていないかもしれませんけど、1000機の敵を一掃した一撃、あの神撃のヴィクトゥルフの光の矢は健在でしたわ」
「ひ……光の矢……1000機を一撃で一掃だと……大袈裟な伝承だと思っていたが本当だったのか」
「リンネカルロ、それが本当だとしてもこれ以上、国軍を失うのは得策ではありませんよ、力尽くでの解決ではなく、ムスヒムとその一党だけを排除する方法はないか考えませんか」
リヒリア王女の言うように相手は元々同じ国の戦力で、バタバタ倒してしまったら後々苦労しそうである。
「確かにそうですわね、しかし、あのムスヒムがそんな隙を見せるかしら……」
リンネカルロが何かを考え、少しの沈黙をしている時、兵士が勢いよく入ってきた。
「大変です、敵の捕虜から情報を聞き出したのですが、今、ムスヒム王子率いる大軍が、レイデマルト公爵領へと進軍を開始しているとのことです!」
「くっ、ムスヒムにユーディンの居場所を知られてしまったようね、私たちもすぐに向かいましょう」
ともかくユーディンがムスヒムに倒されては元も子もないので、俺たちは急いでレイデマルト公爵領へと向かうことになった。
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