第99話 挑発/リンネカルロ
マルダン基地に到着すると、アーサーとエミナは地下の牢獄に入れられ、私だけ別室へと連れて行かれた。私が連れて来られたのは高い塔の上にある部屋で、遠くまで見える、見晴らしのいいところであった。
「私だけこんな塔の上に連れてきてどうするつもりですの」
「リンネカルロ王女には、助けに来る反乱軍が無残にも返り討ちに合う光景を観てもらおうと、特別席を用意しました、どうぞここからご堪能ください」
「趣味が悪いですわね、オルレア……私がどうして貴方に惹かれなかったかよくわかりましたわ」
そう言うと、オルレアの表情が激変する、険しい顔になり、落ち着きのないようにイライラし始めた。
「違う! それは違うぞリンネカルロ! お前が見る目がなかっただけだ! 私になんの落ち度もない! お前が俺を選ばなかったのがおかしいんだ!」
「いえ、違わないですわ、貴方にはなんの魅力もない、私はそれに気がついていただけです」
「み……魅力がないだと……クルス司令は私を最高の男だと言ってくれたのだぞ!」
「クルスがなんと言おうと関係ありませんわ、貴方には殿方としての魅力がありません! そう断言しますわ!」
どうしてここまで挑発的な発言をしたのか自分でもわからないけど、どんどんオルレアを貶める言葉が口から発せられた……それを聞いていた彼の表情は更に険しいものへと変わっていく。
「ぬぬぬっ……リンネカルロ! お前は今の自分の立場をわかっているのか! クルス司令からは好きにしていいと許しを貰っているのだぞ! 今からお前の服をひん剥いて、無理やり私のモノにしてもいいんだぞ!」
「ふふふっ、面白いですわね、力尽くで私が貴方のモノになると思っているのですか、残念ですがどうしようと私は貴方のモノにはなりません!」
「ふっ、面白い、では本当にそうなのか試してやろうじゃないか」
そう言ってオルレアは私に近づいてきた──表情とは裏腹に、体が小さく震える……下唇を噛んで、その震えを止めようとした、こんな男に弱い女の自分を見せたくなかった……
「オルレア将軍! 敵機がマルダン基地へと接近しています!」
オルレアの部下がそう言いながら部屋へと飛び込んできた。それを聞いたオルレアは、掴んでいた私の手を離して、接近してきた敵機を見ようと小さなバルコニーへと出た。
「敵機だと……たった魔導機一機ではないか! あんなの敵の陽動に決まっているだろ、どうして伏兵も全て出撃させたんだ!」
「し……しかし、敵がくれば全軍で一気に叩けとご命令を……」
「それは敵の大軍が現れた時だ! 一機相手にあんな大袈裟な対応をして何を考えてるのだ!」
一機……その言葉に私は引っ掛かった……まさか……たった一機で敵の基地に乗り込んでくるような味方は一人しか知らない……私はその味方の顔思い浮かべた……どうしてだろか、彼の顔を思い浮かべると心が落ち着く、嫌な気持ちが吹っ切れる……すぐにバルコニーに出て確認したかった……だけど、もし本当にこの基地に近づく魔導機が我が国の国宝であったなら……私の心は何かに捕らえられるような気がした。
大きな心の葛藤の末、ゆっくりと足を前に出す……そして私はバルコニーへと出た……もうどうなっても構わない、ゆっくりと顔を上げて外の光景を見た。
マルダン基地から出撃した大軍が、たった一機の魔導機に殺到していた……遠くだけどわかる……あれは間違いなくヴィクトゥルフだ。
ポタポタと涙が頬を伝って自分の手の甲に落ちるまで、私は泣いている事に気がつかなかった……どうして泣いてるんだろう……全然悲しくないのに……それどころか胸は変な高鳴りを見せており、笑顔さえ出ていた。
「何を泣いてるんだリンネカルロ、気でも触れたか?」
「オルレア、私、貴方に思い人はいないと言いましたわね、あれは嘘です。今の私には愛する殿方が一人います」
「なんだと! 誰だそれは!」
「ほら、見えるでしょう、あの魔導機が……あれに乗っているのが私の愛する人ですわ」
「あの魔導機だと……ハハハハッ! そうか、リンネカルロ、お前の思い人は残念ながらもうこの世からいなくなりそうだぞ、見てみろあの光景を……あの状況では、オーディンに乗ったお前でもどうする事もできないだろ」
「確かにオーディンに乗った私でもあの状況を切り抜ける事は難しいですわ、だけど、貴方は知らないでしょう、あの魔導機のライダーはオーディンに乗った私に勝利した男だという事を……」
「う……嘘だろ……俺を挑発する為に嘘を言っているのだなリンネカルロ! 天下十二傑のお前が負けただと……」
「いいえ真実です。彼は私より強い……それも遥かに上の力量です……まさに私が愛するに相応しい人物、オルレア、貴方とは比べようのないくらいの器の男ですわ!」
「ぐぐぐっ……いいだろ、その話が本当なのか私が自ら試してやる! おい、すぐに私のガデルアを用意しなさい」
「オルレア将軍も出撃するんですか?」
「そうです、早く行きなさい」
「は……はい!」
「リンネカルロ、ここから思い人の最後を見てなさい、無残に引きちぎって
きてやる!」
残念だけどそれは無理だと心の奥では思っていた。
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