第96話 思い人/リンネカルロ
☆
「ちょっと、リンネカルロ、もう少しスペース開けてくれないと操作球から手が離れちゃうでしょ」
「もうこれ以上動くのは無理ですわ、アーサー、あなたもっとコンパクトになりなさいよ」
「リンネカルロ様、無理言わないでください、すでに関節が外れそうな感じで限界です」
「だったら関節を外しなさい、そうすればもっと小さくなれますわ」
「そんな無茶な……」
私とアーサーを乗せて、エミナのアルテミスは敵の勢力圏を移動していた。隠密行動には絶対の力を発揮するアルテミスは、保護色とステルス機能を駆使して、敵に見つかることなく、東の要塞へと到着する。
アルテミスは物資搬入の隙に要塞内に侵入すると、保護色を解いて姿を表す。もちろん要塞の兵たちはそれを見て大騒ぎし始めた。魔導機を動かし、闘う準備をする要塞の兵たちに私は大きな声でそれを制止した。
「待ちなさい! 私はリンネカルロ王女です、オルレア将軍に話があって、やってまいりました、すぐに将軍をここに呼びなさい」
それを聞いた兵たちはガヤガヤと騒ぎ始める。どうして良いのかわからないようで、私はもう一度大きな声で怒鳴った。
「早くしなさい! 王女を待たせるなんて非常識ですわよ!」
怒鳴られた兵たちは慌てて将軍を呼びに走った。しばらくすると、あまり見たくない、見知った顔の男が現れる。それを確認すると、私はエミナのアルテミスから降りる準備をする。
「エミナ、大丈夫だと思いますけど、油断しないようにしてください」
「わかってるわよ、何かあったら置いて逃げる可能性があるから覚悟して」
「大丈夫です、リンネカルロ様、私がどんなことをしても助けますので」
アーサーの言葉は無視して、ハッチを開き外に出る。それを見た彼が大きな声でこう言いながらこっちへ駆け寄ってきた。
「おおおっ! 本当にリンネカルロ王女ではないか! 兵たちの話は何かの間違いかと思ったが、お会いできて嬉しいですぞ!」
「オルレア将軍、久しぶりですわ」
「はい、本当にお久しぶりです、何しろ何度訪ねても留守でしたし、王宮で会わないかとウロウロして歩き回ったのですがなぜか会うことができず、私がどれほどあなたにお会いしたかったか!」
この後、願い事をしないといけないこともあり、それは私が貴方を避けていたとは言わず話を進める。
「オルレア将軍、単刀直入にお願いしますわ、ムスヒムの暴走を止める為に、私とユーディンに力を貸してもらえませんか」
「なるほど、どのような用件かと思いましたがそういう話ですか……王国軍のクルス司令官を裏切り、貴方に味方しろと……」
「私の願いが聞けないと言うなら、今後一切、貴方とは縁を切らしてもらいます」
「おおっ! それは困ります! 私が貴方のことをどのように思っているかご存知でしょう!」
分かっているからこんな話をしているのです……そう思ったがそれは言わず、私はオルレアをただじっと見つめた。
「ぐぐっ……そんな目で見つめられたら私は断れません……わかりました、もとよりこの命、貴方に捧げるつもりでした、軍の裏切り者と言われようと構いませぬ、私と指揮下にある魔導機第3軍団は、今よりユーディン王太子とリンネカルロ王女に忠誠を誓いましょう!」
「それでよろしいのです。精一杯尽くしなさい」
「はっ! そ……それでリンネカルロ王女……私の貴方に対する思いなのですが……」
面倒臭い話をし始めた、もちろんオルレアに特別な気持ちなどない私はその話をはぐらかす。
「それより、オルレア、すぐに軍は動かせますか、できれば早急にカロン公爵たちの軍と合流したいのです。それともう一つ、私のオーディンがムスヒムに奪われています、あれがどこにあるかわかりますか?」
「軍はすぐにでも動けるように準備させます。オーディンですがマルダン基地に運ばれたと聞いていますね」
「やっぱりムスヒムにオーディンを処分する勇気はなかったようですわね」
「オーディンは国宝ですから、いくら敵方の妹君しか操ることができないと言っても簡単に破壊などしないでしょう」
「そうね、兄さんは本当は小心者ですから……それより早く準備を進めたらどうですの」
「あっ、はい、すぐに準備させます!」
そう言うとオルレアはすぐに部下に指示を始めた。
指示を終えたオルレアはもう一度私のところへ来て、こう言ってきた。
「リンネカルロ王女、一つだけお聞かせください。貴方に思い人はいらっしゃいますか? こんな時ですが私にとって凄く大事なことですので……」
思い人……それを聞かれて、私はすぐにあの屈託のない笑顔が思い浮かんだ……いえいえ、どうしてこんな時に勇太の顔が浮かぶのです……確かに彼は私に唯一勝った……いえ引き分けた男ですが、ただの下民、王族の私と釣り合う訳がないですわ……
「いませんわ、今は国の大事で精一杯です」
その答えにオルレアは必要以上な喜びを表現している……だけどそう答えたことに、私は何か罪悪感見たいなものを感じていた。
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