第92話 撤退/ジャン視点

「ダメだ、このままだと全滅する! カロン公爵にも連絡して撤退するように進言しろ!」


残念だが戦力差は露骨に結果として出ていた。まともに敵を撃破しているのは無双鉄騎団の面々と、一般ライダー用の魔導機に乗っているリンネカルロとアーサーくらいであった。


「ジャン、カロン公爵をレイデマルト公爵領方面へ逃す為に無双鉄騎団と私たちで殿を務めますわ」


「しゃあねえな……アリュナ、聞いたか、敵を抑えるぞ」


「了解だよ、ロルゴ、右の部隊の進行を止めなさい! ファルマはライドキャリアの護衛に集中、私とエミナで敵を撃破しながら敵の足を止めるよ!」


「ロルゴ、敵……止める……」


「リンネカルロとアーサーは後方で取り逃した敵機を潰しな! 敵を一機も通すんじゃないよ」


リンネカルロがアリュナの言葉に不満の声を漏らす。


「私にそんなゴミさらいみたいな仕事させるのですか!」


「仕方ないでしょ、今、あんたが乗ってるのは一般魔導機だよ、いくらクアドラプルハイランダーだからって限界があるでしょ!」

「そうですけど、この機体でもハイランダーくらいの敵は落として見せますわよ!」


リンネカルロの言葉は虚勢でもなんでもなく、すでに10機近い撃墜数をあげていることからもそれはわかる。


アーサーも頑張ってはいるが、元々がハイランダーの実力しかない奴は、一般機体ではやはりそれほどの力を発揮することができないのか、二機を撃破するのがやっとのようだ。


「全員、無理はするなよ、こんなとこでやられてたら意味ねえからよ」


カロン公爵は自分のライドキャリアに乗ると、レイデマルト公爵領方面へと逃走を開始した。カロン公爵の兵は全てそれに付いて行く──結果、敵を止めるのは無双鉄騎団とリンネカルロたちだけとなる。


「カロン公爵がレイデマルト公爵領に入ったら、俺たちもタイミングをみてずらかるぞ」



アリュナとエミナはさすがに強え、すでに二人で50機は倒しているんじゃねえだろうか、それでも敵の数は減っているように思えないほど湧いて出てくる……体力的にもあまり長時間は戦えねえな……


「こちら、カロン公爵搭乗のライドキャリア、我々はすでにレイデマルト公爵領に入った、レイデマルト公爵の城に、ユーディン王太子名で援軍を要請したので、もう大丈夫だ。無理をせず、そちらも撤退してくれ」


「よし、カロン公爵がレイデマルト公爵領に入ったぞ、俺たちも逃げるとしよう」

「私とエミナで敵を抑えるから、その間にジャンはみんなを収容して後ろに下がりな」


「すまんな、アリュナ、頼むわ」


ロルゴ、ファルマ、リンネカルロ、アーサーを収容すると、ライドキャリアを後方へと進める──その間、たった二人で大軍の進行を足止めする。二人は上手く敵の足を狙って動きを封じていっている……戦い方も上手いような。


「アリュナ、後は私がやるわ、あなたもライドキャリアに戻って」

「一人で大丈夫なのエミナ」

「私のアルテミスにはステルス機能があるのよ、いざとなったら姿を消して逃げるから大丈夫よ」


確かにエミナのアルテミスなら大軍に囲まれてもなんとか逃げ出せそうだな。


「アリュナ、そこはエミナに任せて、お前も撤退しろ」

「わかったよ、エミナ、無理するんじゃないよ」


アリュナも回収すると、全速力でレイデマルト公爵領方面と向かった。


その後、俺たちがレイデマルト公爵領に入るまで敵を抑えていたエミナは、ステルス機能を使って姿をくらまし、見事に敵軍からの逃走に成功する。そしてレイデマルト公爵領の森の奥でエミナと合流した。


「カロン公爵軍とレイデマルト公爵軍が合流したみたいだ」

「そう、でしたらしばらくは持ちそうですわね、後はバレルマ公爵軍にも援軍を要請して、反撃の開始ですわ」


「それだけどよ、それで王国軍に対抗できるのか?」

「カロン公爵軍、レイデマルト公爵軍、バレルマ公爵軍全て合わせても魔導機300機程度ですからね、そのままでは勝負になりませんわ」


「どうするつもりだリンネカルロ」

「一人だけ王国軍で私の味方になりそうな将軍がいますわ」


「オルレア将軍だね、姉さん」

「そう、オルレアなら私達の味方になるでしょう。しかし、その為には私が直接、彼に会う必要がありますけど……」


「オルレア将軍は確か東の要塞に駐屯してる、ここからそれほど距離はないけど……王国軍の勢力圏内だよ姉さん」


「ですから隠密行動で東の要塞に向かうのですわ」

「隠密?」

「エミナの魔導機だけなら行けそうでしょう?」


「えっ! 私?」

「そうですわよ、あなたのアルテミスに私とアーサーを乗せて連れて行ってください」

「ちょっ……ちょっと、私のアルテミスに三人も乗れないわよ」

「無理すれば乗れますわ、私はスリムですし、アーサーはコンパクトに詰め込みます」


「そもそもアーサーが一緒に乗るのはどうしてなの? その将軍を説得するだけならあなただけでいいしょう?」


「オルレアなら私のオーディンとアーサーのセントールの保管場所を知っているはずです、ついでに回収するつもりですから一緒に行くのですわ」


「なるほどな、確かにこれからムスヒムに反撃するにはリンネカルロのオーディンとアーサーのセントールは必要だろう、エミナ、ここは無理して乗せてやれ」


「もう……変なとこ触らないでよね」


こうしてエミナ、リンネカルロ、アーサーは別行動で東の要塞へと向かい、ユーディンを連れた俺たちはカロン公爵と合流する為にレイデマルト公爵の城へと向かった。

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