第86話 伝説の起動

もう逃げ道がない、どうすればいいんだ…………あれ? 確かにリンネカルロのオーディンやアーサーのセントールはないけど、よく見ると魔導機が一機置かれてるじゃないか、俺はそれをリンネカルロに伝える。


「リンネカルロ、あの魔導機は壊れてるのか?」


「えっ、ああ……あれはこの国を建国した英雄、ルザークの魔導機でこの国の国宝ですけど、残念だけど使えないですわ」


「そうなんだ、動きそうだけどな」

「起動ルーディア値が馬鹿高いのよ、この国の歴史上あれを動かせた人間はいないわ、もちろんルーディア値48000の私も例外ではありません」


「そうか、じゃあ無理だな」


「いや、無理じゃねえ、勇太、お前あれに乗ってみろ!」


その話を聞いていたジャンがいきなりそう言い出した。


「えっ! ちょっと待て、話聞いてたか? 起動ルーディア値が馬鹿高い魔導機だぞ、俺が乗れるわけないだろ」


「いや、お前なら動かせる! 俺はそう信じてる! と言うか、あれを動かしてこの包囲網を突破するしかもう方法がない! 意地でもあいつを動かすんだ勇太!」


「無茶苦茶言うなよ……」


「いえ、確かに得体の知れない力を持っている勇太なら……本来なら王族以外には触ることも許されない魔導機ですが、私が特別に許可しますわ、勇太、あの魔導機、ヴィクトゥルフに乗りなさい!」


まあ、確かにこのままだと全員ムスヒムに捕まって、下手したら全員殺されてしまうだろ、ダメもとで動くことに賭けるか。


俺は仕方なく魔導機ヴィクトゥルフに搭乗する──もう包囲して逃げられないと思っているのか、敵は慌てず、ゆっくりとこちらに近づいてきている。


操縦席はアルレオとあまり変わらないな──そう言えばこの状況、ファルマの家で最初にアルレオを動かした時と似ている……あの時、アルレオは動いた、今回だって動くはずだ。


俺は手を揉み揉みとほぐし、祈りを込めて二つの操作球にそっと手を置いた──


「動けヴィクトゥルフ‼︎」


気合を込めてそう叫んだ瞬間、パパパパッと周りの機器に電源が入っていくように点灯していく、そしてウィーンとモーターか何かが回るような音が響いてきた──


「よっしゃ! 動いたぞ!」


俺はすぐに操作球に立ち上がるようにイメージを送った。ほとんどタイムラグもなく、そのイメージはすぐにヴィクトゥルフに伝わる──ギギギっと軋む音を響かせて、ゆっくりと立ち上がる姿を見た仲間たちが感嘆の声をあげた。


「信じられませんわ……本当にヴィクトゥルフを動かすなんて……」


「なんだよリンネカルロ、やっぱり動かないと思ってたのか」

「当たり前です! ヴィクトゥルフの起動ルーディア値は20万とも言われてるんですわよ」


「に……20万だと!」


「まあ、伝承でそう言われているだけですから真相はわかりませんですけど、勇太の本当のルーディア値が常識では考えられないほど馬鹿高いのだけは間違いありませんわ」



立ち上がった俺は、近づいてくる敵機を見る。伝説の機体が動き出して、敵は明らかに動揺していた。


「ま……まさかヴィクトゥルフが動くだと……くっ……かまわん、あんな骨董品ぶち壊してしまえ!」

「し……しかしムスヒム様、あれは国宝の……」

「俺が壊せと言っているんだ、何か問題あるのか?」

「いえ……ありません……」


敵の数は五機──ヴィクトゥルフを囲むようにゆっくりと近づいてくる。ヴィクトゥルフは武器を装備していなかったので、敵機の一体を、素手で殴りつけるイメージを操作球に送った──


ぐわっと体に強烈なGがかかり、ヴィクトゥルフは急激に加速する、そして一瞬のうちに敵機に近づき、拳を叩きつけていた。


重い空気が破裂するような衝撃が起こり、殴りつけた敵機の上半身が吹き飛ぶ──両腕も頭部を粉々に粉砕され、胴体の上部も跡形もなく粉砕される。


驚くほど軽い……そして力強く感じる、明らかにアルレオより動きが良いように感じた。


「ば……馬鹿な! あれはハイランダーの機体だぞ……それを一瞬でボロボロに……くっ……ええ〜い! 何をしてるか! 全員で一斉にかかれ!」


ムスヒムの号令に応えるように、残った四機の魔導機が一斉にヴィクトゥルフに襲いかかる。


俺は回転するように近づいた四機を払い除けた。自分では軽く動いたつもりであったが、ヴィクトゥルフは力強い動きで、唸るように腕を振るう。


まさかのその一振りで、四機の敵機は吹き飛ばされ、バラバラと腕や頭が千切れ飛ぶ。


「ぐぐぐっ……化物か……」

「ムスヒム様、ここにいては危ないかと、後は外の魔導機部隊に任せてお引きください!」

「仕方ない、必ず仕留めるように外の部隊に伝えよ!」


そう言ってムスヒムは王宮の奥へと去っていく──

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