第85話 王位決定
「カロン公爵様がいらっしゃいました!」
衛兵がそう報告してくる……ムスヒム陣営も、ユーディン陣営も部屋の扉を見つめる。そして扉が開かれ、カロン公爵……いや、そこに現れたのはテセウス公子であった。
「テセウス、貴様がどうしてこの場に来るのだ、父上は、カロン公爵はどうした!」
ムスヒムがそうテセウスに声をかける。
「今日から私がカロン公爵です、ムスヒム王子」
「な……何を馬鹿な!」
「これが正式な家督相続の証明書です、父上のサインもありますので確認ください」
まさかの展開にその場がザワザワとざわつく。ムスヒムはその証明書を確認して顔を色変える……
「くっ……まあ良い、誰であろうと私に票を入れるのなら問題ない」
「残念ですが、私は自分の意思で投票をする権利がある」
「なんだと、私はお前の義弟だぞ! しかも父上とは約束もしている……なのに貴様は!」
「残念ですが父上の約束を私が守る必要はありません、私は私の考えで票を入れさせていただきます」
そう言ってテセウスはムスヒムとユーディンの札の前と進む──
「私は誠実な政治、公正な国事を行う王に票を入れる!」
テセウスは力強くそう言うと、ユーディンの札の下に、自分の札を置いた。
「馬鹿な! そんなわけあるわけない! テセウス! 貴様、許さんぞ!」
それを見てムスヒムが大きな声で怒りを露にする。
「ムスヒム兄さん! これは正当な投票結果ですわよ、王位継承はユーディンに決まりですわ!」
「五月蝿い! ユーディンなどに王が務まるわけなかろう! 俺しかいないんだ! 王になるのは俺しか考えられん!」
「ムスヒム王子、これまでです、ここは負けを認め、ユーディン王太子の王位継承をお認めに……グフっ! お……王子……何を……」
ヒステリックになったムスヒムを諫めていた宰相のブロムの腹を、ムスヒムはあろう事か剣で貫いた……
「貴様が不甲斐ないからこんな結果になったのだろうが! 何が負けを認めろだ! 俺は誰にも負けてない! 俺は王になるんだ! こんな投票など無効だ!」
「やめなさい、ムスヒム兄さん!」
「ふっ、リンネカルロ、俺が投票で負けた時のことを考えてないと思ったのか!」
「えっ……」
ムスヒムが合図をすると、隣の部屋で待機していたムスヒムの兵が乱入してきた。
「ユーディンを殺せ! 王になるのは俺だ!」
ムスヒムはまさかの強行手段に打って出た、ユーディンを守ようにアリュナとアーサーが前へ出る。
「ムスヒム、あなた恥ずかしくないのですか、これは完全な反逆行為ですわよ、逆賊になってまで王になってどうするのですか!」
「反逆……逆賊……勘違いするなよリンネカルロ、まだユーディンは王ではない、いや、永遠に王には成れないのだよ! 何故なら今日、ここで死ぬのだからな! 何をしている、さっさと殺せ!」
ムスヒムの命令に従い、兵がユーディンに襲い掛かろうとする、それはアリュナとアーサーが防ぐ。それにしても実の弟を平気で殺せとかよく言えるな。
「リンネカルロ! ここにいては危ねえ、まずは逃げることを考えた方がいいぞ!」
ジャンの警告に、リンネカルロは頷いて答えた。
リンネカルロはユーディンを連れて部屋を飛び出る、兵がそれを阻止しようとするが、アリュナとアーサーによって剣で倒される。リンネカルロの話では顔以外取り柄がないと言っていたアーサーだが、なかなか剣の扱いも上手く、数人の兵を圧倒している。
「何してんだ勇太、お前も早くこっちへこい!」
ジャンに言われ、俺も急いでリンネカルロたちの後を追う。
「どうする、リンネカルロ、あの感じだと王宮の出入り口にも手を回してるぞ!」
逃げながらジャンがリンネカルロに尋ねる。
「地下に行きましょう、そこに私のオーディンがあります」
なるほど、確かに魔導機なら包囲を突破できるかもしれない……俺たちは迫りくるムスヒムの兵を掻い潜り、地下格納庫へと向かった。
「そ……そんな……」
地下格納庫にきたリンネカルロが絶句する、そこにはリンネカルロの魔導機オーディンの姿が無かったからだ。
「ハハハハッ、リンネカルロ、こうなった時、お前が魔導機のあるこの格納庫に来るのは読めていたんだよ、必要ないと思ったがお前のオーディンは移動させてもらった」
「ムスヒム……」
ムスヒムが格納庫の上にあるスペースからこちらを見下ろしてそう説明する。
「魔導機が無い自分がいかに無力か思い知りながら死ぬがいい!」
そう叫ぶと、格納庫の入り口からワラワラと魔導機が入ってきた──どこの出入口も兵に塞がれ逃げ道はない……どうすればいいんだ……
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