第84話 王位継承投票

いよいよ王位継承の投票日となった。俺とアリュナ、ジャンは、王族警護の名の下にリンネカルロに同行する。


王位投票の場には、投票者以外にも、立会人として十人ほどの国の重要人物が参加していた。


「カロン公爵がまだ来ていないですが、時間です、投票を始めましょう」

場を仕切る宰相のブロムがそう。


「ちょっと待ちなさい、全員揃ってからでも良いでしょう」

テセウスとの約束があるので、カロン公爵の票を期待しているリンネカルロがそう抗議する。


「何もカロン公爵の票を無効にするとは言っていないだろ、後から来ても投票させるからもう始めよう」

ムスヒムにとっても義理の父の票を確実視しているのでカロン公爵の票を無効にするとは言わないようだ。


「わかりましたわ、それなら良いでしょう、始めて頂戴」


投票は順番に、ユーディンとムスヒムの名が書かれた札の下に、投票者の名が書かれた札を置いていくことで進めることになった。最初に投票するのは第二王子のビルデロだ。


「ユーディンみたいな貧弱な王など必要ない! これからこの国に必要なのは絶対的な支配者だ、俺はムスヒムに投票する!」


そう言ってムスヒムの札の下に、自分の札を並べた。


次に投票するのは第一王女のリヒリアである、リンネカルロのお姉さんだと思うけど全然似ていない、清楚で大人しい感じの大人の女性であった。彼女は札の前に来るとこう言う。


「私は国に平和をもたらす王を推薦します、ユーディンこそ次の王に相応しいでしょう」


そう言いながらゆっくりとユーディンの札の下に自分の札を置く。


次は第二王女リンディルが前に進む、彼女はヘラヘラと笑いながら札の前まで歩みを進めた。


「私は自由を、楽しい人生を、ユーディンの治める国は窮屈そうでダメね、なのでムスヒムに入れるわ」


そう言いながら乱暴な感じにムスヒムの札の下に自分の札を置いた。


次はリンネカルロの番である、彼女は札の前に進むとこう言い放った。

「ムスヒムに人の心がありませんわ、国を治める者には民の気持ちを理解できる人物を! 私はユーディンに投票します」


そう言ってユーディンの札の下に自分の札を置いた。


ここまでの展開は予想通りで、ムスヒムもリンネカルロも表情に余裕が見える。


ここから公爵たちの投票となる、一番最初に場を仕切っている宰相のブロムが前に出た。


「私から投票させて貰います。強い国、より大きな国へと発展するにはその力のある指導力こそ必要かと、ですのでムスヒム王子こそ王に相応しいと考えます」


そう言って自分の札をムスヒムの名の下に置いた。


宰相ブロムに続いて、レイデマルト公爵が前に出る。


「どちらに投票するか悩みましたが、やはりユーディン王子の人柄が王に相応しいかと思います」


レイデマルト公爵はどうやら中立に近い位置だったようで、ムスヒムに睨まれている……その視線を気にしながらユーディンの名の下へ自分の札を置いた。


レイデマルト公爵が下がると、バレルマ公爵が前へ出てきた。

「私は、やはり王太子が王位を継ぐものだと考えますのでユーディン王太子へ一票入れさせて貰います」


堂々とユーディンの名の下へ自分の札を置いた。これでユーディン王太子に四票と王手である。残るはホロメル公爵とカロン公爵だ、二人とこちらへの票の可能性が高いので勝利が見えてきた。


ニヤニヤしながらホロメル公爵が前へ出る。その顔を見た瞬間、嫌な感じがした……もしかしてあの守銭奴、変な事考えてるんじゃないだろうな……


「いや〜悩みに悩んだ末、やはり国を豊にする者が王になるべきだと考えた、その者の名はムスヒムだ、ユーディンなどではない、よってワシはムスヒム王子に票を入れる」


やっぱりあいつ、直前で裏切りやがったな……リンネカルロやアーサーも渋い顔をしている……やばい、票数が並んだ、残るはカロン公爵だけど……テセウスがうまく説得できていればいいけど……


「ハハハハッ! これで勝敗はついたな! 俺が次の王だ!」


ムスヒムは大きな笑い声を上げながらそう宣言する。


「まだカロン公爵の票が決まっていないですわ!」

「ふっ、決まっているんだよ、カロン公爵はすでに俺に入れると約束しているのだ」


「えっ! まさかそんな……だけど直前で考えが変わるかもしれないですわよ!」

「おいおい……カロン公爵の性格はわかっているはずだぞ、彼は一度口にした約束は必ず守る男だ、どんなことがあっても必ず俺に投票する!」


確かに一度会っただけだけど、約束を破るような人物には見えなかった。そんな彼がムスヒムに投票すると約束している……これではいくらテセウスが説得しても難しいように思えた……

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