第83話 敵襲/渚



同盟締結の署名では、エモウ王とマジュニさんでかなり激しい言い合いになったが、ラネルの『いい大人が子供みたいな喧嘩しないの』と言う言葉で落ち着きを取り戻し、無事に同盟締結の署名が完了した。


「まさかあの偏屈者が、アムリアと同盟することを了承するとはな」


「全部、渚のおかげよ、ちゃんとお礼言いなさいよお父さん」

「そうか、ありがとう、渚」

「いえ、私は何も……」


「これで東部諸国連合も安泰だろう」

「でも、エモウ王が言うにはその東部諸国連合の中に、裏切っている国があるらしいからね、安心はできないと思うわよ」

「裏切っている国ね……そんなことして何の利益があるのか……まあ、帰ったらベダ卿あたりに相談してみよう」



私たちは一度アムリアに帰宅していたのだけど、その途中、とある山奥でそれは起こった。


「敵襲! 正体不明の魔導機が接近しています!」


見張りをしていた兵がそう大きな声で警告する。

「敵襲って……ここは東部諸国連合の勢力圏内よ! どこの国の魔導機なのよ!」

「国家マークをもなく、所属はわかりません! 敵の数は20前後です!」

「……仕方ないわね、迎撃します! 渚、ごめん初陣になりそうよ」

「ええ! 嘘でしょう……」


まさか私が本当に戦うことになるなんて……戦争なんてしたくないよ……勇太……私どうしたらいいの……



「すでにラスベラ、イダンテ、バシムの準備はできています!」

「レアールはどうしたの!?」

「すみません、丁度オーバーホール中でしたので……」


「ごめん、渚、初陣に付き合えないみたい、ジハードとデルフィンから離れないでね」


「うん、わかってる」


私とジハードとデルフィンは、ライドキャリアのハッチが開くとすぐに出撃した。


「相手は20前後、俺たちよりかなり数が多いからなるべく固まって戦うぞ」

ジハードの言葉に私とデルフィンは同意する。


「きたぞ! 渚、無理はするな」


最初に襲ってきたのは五機編成の部隊で、五機とも剣と盾を装備している。


ジハードの魔導機イダンテの武器は長い剣で、それを突くようにして突撃してきた敵機を攻撃した。敵機はジハードの攻撃を盾で防ぐと、剣で応戦する。


デルフィンの魔導機バシムの武器は大きな斧で、大きく振りかぶると敵機を真上から叩きつけるように殴打した。敵機はその強力な攻撃を盾を掲げるように防ぐ、しかし、威力が強く、両膝を折るように崩れる──崩れた敵に対して、斧を野球のバットのように振りかぶって首元に斧を突き立てた。敵機はバシュバシュと音を立てながら力なくその場に倒れる。


私に向かって二体の敵機が襲いかかってきた──


「渚!」


ジハードとデルフィンが注意の声をかけるが彼らは敵と応戦中で動けない……もう戦うしかないよね……私は道場での練習を思い出す──幼い頃から父から教わった合気道──指導熱心な父は娘に容赦なく、お陰様でこの年で5段の腕前にまで成長している……


遅い、練習での父の動きに比べたら亀と燕ほどの差がある、こんなの目を瞑っていても避けられる。剣で攻撃してきた敵機の攻撃を体を捻って避けると、相手の勢いを利用して首元に手を掛け、そのまま地面に叩きつけた。合気道の練習では相手に怪我をさせないように受け身を取りやすい感じで倒すのだけど、転倒のダメージがそのまま体に残るタイミングで叩きつけたので、敵機はそのまま全身から煙のような気体を噴出させて動かなくなった。


流れるよな動きでもう一体の敵の攻撃を避けると、腕を取り、敵機を振り回すように回転させ、その勢いを利用して肘で頭部を殴打する。回転の力も加わり、敵機の頭部は無残にも吹き飛んだ。


「な……渚、すげー……」

私の戦い方を見て、ジハードが感嘆の声をあげる。


「ジハード、次の敵がきてる!」

ボーとするジハードにデルフィンが注意する。


次は敵の本隊のようで、10機以上もいる。私は腰に付けている太刀を抜くと中段の構えで体を静止させる。


「ジハード、デルフィン後ろに下がって」


味方がいると動きにくいと考え、二人を後ろに下がらせた。敵機は私のラスベラに向かって襲いかかってくる。


合気道にはあまり知られていないけど、武器を使った技がいくつもある、特に私は太刀技が得意で、あの厳しい父も、渚は太刀技だけなら俺より強いとお墨付きだ。


私は目を閉じて心を落ち着かせる……意識を研ぎ澄まし、敵の攻撃に集中する──何故だろう……ラスベラの中にいると集中しやすい……意識がどんどん心の中核に向かって進んでいく……気持ちいい……フワフワと体が浮いていくようだ。


「なんだ! 渚のラスベラから青い白いオーラが……おい、デルフィン、あれはなんだ?」


「俺にもわからん……」


二人の会話は聞こえるが気にならない──すでに私はある種のゾーンに入っていた。


一斉に襲いかかる敵機に対して体が勝手に反応する、しかも驚くほどの速さで、的確にカウンターを繰り出していた。


一機、二機、三機……──一撃で一機を確実に倒す──四機、五機、六機……何も考える必要はなかった、私の中の何かが、勝手に敵を倒していく……七機、八機、九機……そこで敵の攻撃は止まった。


見ると残りの敵機は、来た方向へと逃げていた──

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