第82話 王太子と公子
俺たちは王宮に戻ると、すぐにリンネカルロを訪ねた。
「早かったですわね、それで首尾はどうでしたか」
「問題ねえ、ちゃんとホルメル公爵にユーディンに票を入れると約束させてきたぜ」
「それはご苦労さん、こちらも順調に二人の公爵の説得に成功していますわよ、後は投票日を待つだけですわね」
「それでリンネカルロ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「私にお願いですか? まあ、いいですわ、言ってみなさい」
「ユーディンと話がしたいと言う人物がいるんだけど、お願いできないかな」
「ユーディンと……誰ですかそれは? あまり変な輩を王太子のユーディンに近づけるのは無理ですわよ」
「いや、相手は多分、リンネカルロも知ってる人物なんだ、悪い奴じゃないと思うし、リンネカルロに利益がある話だから」
「……そこまで言うなら話す機会を作るくらいならいいですけど、一体誰なのですの?」
「本人が会うまで黙っててくれって言うからそれは言えない」
「わかりました、あなた方を信用しましょう。それでユーディンをどこに連れていけば良いのかしら」
「相手は俺たちのライドキャリアで待ってるからそこにしよう、あと、あまり目立たないように来て欲しいそうだ」
「いいでしょう、それでは今晩、ユーディンと一緒にライドキャリアを訪ねましょう」
これでテセウスの約束は果たすことが出来そうだ。後は当人同士、何を話すかわからないけど、なるようになるだろ。
その日の夜、約束通りリンネカルロとユーディンがライドキャリアを訪ねてきた。アーサーは余計なことを喋るといけないのでそれまでテセウスと一緒にライドキャリアに留まってもらっていた。
「なるほど、密会の相手はあなたでしたの」
「久しぶりですリンネカルロ王女、そして王太子ユーディン」
「テセウス公子、まさかあなたが待っているとは思いませんでした」
「ユーディン王太子、来ていただきありがとうございます」
「それでテセウス、話とはなんなのですの」
リンネカルロがいきなり本題に入る。
「はい、実はユーディン王太子にお願いがございまして、こんな場を用意していただいた次第です」
「お願い……今の僕に、テセウス公子の為にできることなどありますか」
「今のあなたではありません、王になったあなたにお願いしたい」
「カロン公爵の嫡子が……いえ、ムスヒム王子の義兄が言う言葉とは思えませんが……」
「私の願いは、メルタリア全土の税率の一律化と、領民に対する迫害禁止令の発令にございます」
「……そうですか……確かに領地によっては民への扱いが酷いと聞いたことがあります」
「はい、ホロメル公爵領は特に酷く、税率八割、ホロメル公爵への無償の奉仕義務、他領内への移動の禁止……許されるものじゃありません」
「しかし……どうしてそれを僕に願うのですか、あなたならムスヒム王子に言うことも可能だと思いますが」
「あのムスヒムがこの提案に同意すると思いますか?」
「確かにそうですね、我が兄ながら彼には民を思う心がありませんから……わかりました、僕が王になったら、税率の一律化、民への迫害禁止令の発令をお約束します」
「ありがとうございます! これで私も心置きなく父上を説得できます」
「説得とはどう言うことですか……」
「カロン公爵の票は、ユーディン王太子に入れるように父を説得いたします」
「それは願ってもないことですが……良いのですか」
「はい。私はあなたに王になっていただきたいと思っていますのでご心配なさらないでください」
王太子と公子の密会はお互いに納得する内容で終わったようで、最後にはお互い握手して終了した。テセウス公子は親であるカロン公爵を説得する為にまた家へと戻ることになった。
「それにしてもホロメル公爵の票だけでなく、カロン公爵の票まで取ってくるなんてお手柄ですわよ」
「はっ、お褒めの言葉ありがたく頂戴します!」
「アーサー、あなたに言ってるんじゃないわよ、勇太、いえ無双鉄騎団、よくやってくれました」
「ボーナスとか出ねえのか、言葉よりその方が嬉しいんだけどよ」
ジャンらしくリンネカルロにそう返す。
「そうね、これでユーディンが無事、王座につくことが出来たら考えますわ」
こうして、王位の投票ではユーディンが一歩リードする形になり、後は当日の結果を待つばかりとなった──このまま無事に終わればいいんだけど……
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