第80話 獅子王
獅子王と呼ばれている野盗のリーダーは、静かに話し始めた──
獅子王の話はこんな内容であった、昔、この辺りはシュトガル王国と言う小さな国であったのだが、自らの領土を拡大したいと考えていた若く野心家であったメルタリアのホロメル公爵の策略と侵略により、20年前、王は殺され、若く美しかった妃はメルタリアの人質となり囚われの身となった。
妃はやがて、その美貌に惚れたメルタリアのカロン公爵の必死の求婚に応え、その妻となり二人の子を授かる……しかし、今から数年前、そんな妃も病に倒れ亡くなったと言う話である。
「興味深い話だけど、その昔話が私たちに何の関係あるんだい」
アリュナの疑問に、獅子王はこう話を続ける。
「その妃はシュットガルの民に慕われていた、それは国が無くなり、妃が他の国の貴族の妻になっても変わらなかった……妃の方もそんな民達を愛し、ずっと気にかけていたんだよ。そんな妃が亡くなる前に息子にこんな言葉を残した──旧シュットガルの民が圧政に苦しんでいる……何とかならないだろうかと……」
それを聞いたアリュナが何かに気がついたのかこう言った。
「そう言うことかい、あんたシュットガル妃の忘形見だね」
「私が誰かはご想像に任せる、しかし、圧政に苦しむこの地の民を放って置けない者だと思ってもらって結構だ」
「話はわかった、あなた達が普通の野盗じゃないのも理解した、だけど、俺たちは依頼主を裏切るわけにもいかないし、その為にはこの地の野盗を殲滅する必要がある、悪いけどこのままあなた達を見逃すわけにはいかない」
「なるほど、ならばどうするのだ、やはり私を捕まえるか」
「死んだ振りをしてくれないか。野盗は殲滅した、あなた達は俺たちに倒された、そうしてくれれば問題ないんだけど」
ホロメル公爵より、獅子王の方が好感が持てたのもあり、俺はそう提案していた。俺たちにとってはユーディンに投票が入ればいいだけで、別に彼らを殲滅するのが目的ではないのも理由である。
「差し支えなければ、君たちがホロメル公爵に肩入れしている理由を教えてもらえないか」
「俺たちの雇い主はリンネカルロだ、もうすぐ、ユーディンとムスヒムとの間で王位継承の投票があるのだけど、ユーディンに投票する交換条件が野盗の討伐なんだよ」
「……わかった、私たちは死んだ振りをしよう、だが、一つだけ頼みを聞いて貰えないか」
「頼み?」
「そうだ、私とユーディン王子で話をする機会を作って欲しい、リンネカルロ王女と繋がりがあるのなら可能だろ」
「ちょっと待て、そんなことして俺たちに何のメリットがあるんだ、見逃した上に依頼主に無理なお願いするなんて割りに合わないぞ」
「まず、ささやかな礼に二億支払おう、それともう一つ……王位継承の投票、カロン公爵の票を約束しよう」
そういえばカロン公爵って聞いたことあると思ったが、今回の王位継承の投票をする一人だ。その票を約束するってことはやっぱり獅子王がシュットガル妃の忘形見ってのは正解みたいだな。
「悪かないね、どうする勇太、票の話が本当ならリンネカルロも納得すると思うけど」
「そうだな、その話受けるよ」
「その判断、後悔はさせないと約束しよう」
獅子王との話はこれでまとまった、お金も貰えるし、新しい票も約束されたし、何ともいい結果なのではないだろうか。
「しかし、野盗を殲滅したと報告するとして、あのホロメル公爵がそう簡単に信じるかね」
「あっ、それだけど俺にアイデアがあるんだ」
俺は考えていたホロメル公爵への報告方法をアリュナと獅子王に説明した。
「魔導機の頭部を持って帰ると……斬新な発想だな」
「俺の母国では、昔の戦いでそうやって手柄を示してたってのを思い出したんだよ」
「どう思うかはわからないけど、討伐した証拠にはなるかもね」
「いいだろ、魔導機の頭部で証拠になるならいくらでも持っていってくれ」
俺たちは野盗の全ての魔導機の頭部を切断して、残酷な感じを演出する為に、それを槍に串刺しにして持ち帰った。
獅子王は俺たちに払うお金の準備と、ユーディンとの面会の為に同行することになった。
「あんたいつまでそんな仮面付けてるんだい」
ライドキャリアに戻り、一息ついた時にアリュナが獅子王にそう指摘した。
「ふっ、そうだな、もう意味もなかろう……」
そう言って獅子王は仮面をとった。
「て……テセウス公子!」
どうやらアーサーは獅子王の正体を知っているようでそう声をあげた。
「カロン公爵が嫡子、テセウスです、どうぞ宜しく」
テセウスは色男のアーサーにも負けぬほどの美男子で、威厳がある分テセウスの方がモテそうであった。
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