第79話 洞窟での戦い
エミナが見張りを倒した崖からさらにデナ山の中腹に向かって進むと、また見張りの魔導機の姿が見えた。
「あそこが野盗のアジトみたいね」
見張りは洞窟の入り口を守ように立っている、アリュナの言うようにアジトはおそらくそこだろう。
「見張りは二体、エミナ、もう一度頼める?」
「了解、任せて」
そう言ってアルテミスがまた保護色を展開して周りの景色に同化する。
「エミナが見張りを倒したら突入するよ」
「もう見つかってもいいのか?」
「歩兵の姿もチラホラ見えるから流石に隠れるのも限界があるでしょう、どうせ見つかるんだったら一気に制圧した方がいいわね」
確かにそうだ、歩兵も全部見つからないように倒すなんて無理だしな。
さっきと同じように見張りの魔導機の一体が、膝から崩れ落ちるように倒れる──もう一体の見張りが驚いて倒れた魔導機の方を見た瞬間、その魔導機の頭部が吹き飛んだ──パチパチと火花のような音を立てて保護色が解除され、姿を表したアルテミスは左腕に装着したボウガンを頭部を破壊した魔導機に向けている。
「よし、いくわよ! 歩兵は無視して、魔導機の破壊を優先しましょう!」
俺たちは魔導機一体がなんとか通れる洞窟の入り口を俺、ナナミ、アリュナ、アーサー、エミナの順で突入した。
洞窟の中は広い空間になっていた、そこには多くの荷物が置かれており、魔導機の姿もチラホラ見える。
野盗達はワーワーと騒ぎながら逃げ惑い、魔導機は武器を持って迎撃に出てきた。
「アリュナとエミナは右の魔導機部隊を頼む、ナナミとアーサーは左を、俺は中央のを叩くよ」
三方に散って、敵の魔導機を狙って攻撃を開始した。
長い槍を持って攻撃してきた魔導機のボディーをトンファーで叩いて潰すと、両手剣をブンブン振り回して近づいてきた敵機を蹴り一撃で粉砕する。前から突っ込んできた大きな斧の攻撃を体を捻りながら避けると、足、同、頭の順に叩いて潰して行動不能にさせる。
左右から同時に襲ってきた敵機は体を回転しながらトンファーを振り、ほぼ同時に頭部を破壊する。
近くの敵は全て倒して周りを見渡すと、アリュナたちもすでに敵機を片付けたみたいだ──洞窟に突入してから僅か数分での制圧に逃げることもできなかっただろう。
「貴様ら、何者だ! ホロメル公爵の私兵どもか!」
外部出力でそう叫ぶながら現れたのは獅子をモチーフにした頭部の白い魔導機であった──
「いや、俺たちは傭兵だ」
俺は外部出力でそう答える。
「ほほう、ホロメル公爵に雇われたのか」
「正確には雇われたわけじゃない、交換条件でお前達を討伐しにきたんだ」
「交換条件だと……雇われたわけじゃないのなら、まだ交渉の余地はあるってことだな、どうだ、話だけでも聞いてみないか、お前達に損はさせないが……」
「野盗と交渉なんてしないよ、大人しく捕まりな!」
野盗の提案にアリュナが間髪入れずにそう言い切った。
「ふっ、悪いが捕まるわけにはいかない、だから交渉に応じる気がないなら死ぬまで戦うまでだ」
そう言いながら獅子の魔導機は剣を構えて戦う姿勢を見せた。
「アリュナ、ちょっと待って、話だけでも聞いてみよう、捕まえるのはその後でもできるから」
街の評判とか聞いてると普通の野盗とは違うような気がしていたので、彼の話が気になった。俺がそう言うと、獅子の魔導機は戦闘態勢を緩める。
「魔導機に乗ってするような話でもなかろう、できれば降りて話がしたいのだが良いか」
「いいけど降りるのは俺ともう一人だけだ、何かあったら困るから他の仲間にはそのまま魔導機で待機してもらう」
「それで構わない、私の部下達も後ろに下がらせよう」
獅子の魔導機から降りてきたのは、ジャンの情報通りに獅子の仮面をかぶった人物だった。相手が魔導機から降りるのと、野盗が周りから下がるのを確認すると、俺とアリュナが話を聞く為に魔導機から降りた。
「まずは礼を言おう。こちらの主張を述べる機会を与えてくれてありがとう」
「味方の魔導機をほとんど破壊した相手に丁寧なこったね」
嫌味のように言うアリュナの言葉に、獅子の仮面は怒りもせず冷静な態度を崩さない。
「魔導機などより大切な話だと私は思っているのでな」
「そんな大事な話をなぜ俺たち傭兵にするんだ」
「そうしないと私は君たちに捕まってしまうだろ、戦闘を見たがとても私たちに勝てる相手ではないようなのでな」
「なるほどね、余裕なセリフはフェイクってことかい」
「弱みを見せては話し合いにも持っていけないだろうからね、悪いが騙させてもらったよ」
獅子の仮面の男の表情は見えないので、わからないはずだが、彼はこの時、少し微笑んでいるように見えた。
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