第76話 思い人
ホロメル公爵の屋敷は豪華絢爛、物凄い豪邸であった──
「ほほう、リンネカルロ王女の使いか……果たしてどの様な用件かな」
ホロメル公爵はまさに大貴族のイメージに合う風貌であった。丸く太った体、長く伸ばした髭、細く鋭い目……お世辞にもあまり人が良さそうには見えない。
「リンネカルロ王女よりの密書でございます、こちらをご確認ください」
そう言いながらアーサーがリンネカルロから預かっていた手紙を渡した。
「密書とな──ふむふむ、なるほどな、王位継承の投票の件は聞いておるが……ワシにユーディンに投票しろとは……交換条件はワシの領内で暴れ回っている野盗の討伐と……ハハハハッ、面白い、実に面白い提案だ、金の無い貧乏王女が搾り出した最高の条件じゃな」
その言葉にアーサーが露骨に嫌な顔をする……今にも掴みかかりそうになるのをアリュナが首根っこ捕まえて抑える。
「いいだろう、確かに票の一つであの野盗どもが一掃されるのなら儲け物だ、この提案受けよう」
予定通りホロメル公爵がリンネカルロの提案に乗ってきた、これで後は野盗を討伐するだけである。
「よし、釣り針に魚がかかったぞ、後は引き上げるだけだ」
「それじゃあ、手分けして野盗の情報でも探りましょう、私と勇太、ジャンとエミナ、アーサーとファルマ、ロルゴとナナミで分かれましょう」
「ちょっとアリュナ、どうしてアリュナと勇太なの、ナナミと勇太でもいいよね」
「そうだぞ、アリュナ、その組み合わせはバランスが悪い、ロルゴとナナミでどんな情報取ってくんだよ」
「ちょっと、ジャン、何よその言い方、ナナミとロルゴだと何もできないみたいじゃない」
「いや、情報取集はってことだよ、別に何もできないなんて言ってねえだろ」
ナナミだけではなく、アリュナの考えた組み合わせに納得しない者がいたので、ここは公平にあみだくじで決めることになった。知らない場所で危険がないように、護身術を身につけているアリュナ、エミナ、アーサーと、口で危険を避けられそうなジャンの四人が分かれて、ペアをクジで決めることになった。
それで決まったのが──
アリュナとナナミ、エミナと俺、アーサーとファルマ、ジャンとロルゴのペアとなった。
「それじゃ、夕方にこの広場に集合でいいわね」
アリュナの言葉に頷くと、俺たちはそれぞれの方向へと情報収集へと向かう。
「エミナ、どう、無双鉄騎団に慣れた?」
「まあ、慣れたといえば慣れたかしら……」
「そういえば、エミナって何か趣味とかあるの?」
「趣味? 私の趣味に興味なんてないでしょう、無理に話なんてしなくてもいいのよ」
「いや、別に無理してるわけじゃないんだけど、仲間だし、少しでもお互いを知っていた方がいいだろ」
「そう……まあ、あなたは無双鉄騎団のリーダーだし、そう考えてもおかしくないわね……私の趣味はお買い物よ、洋服とか小物とか、見て回るのが好きなの」
「へぇ〜そうなんだ、それじゃ今から少し買い物しようか」
「何言ってるのよ、野盗の情報を集めないといけないでしょ」
「そうだけど、買い物しながらでも情報は集められるだろ」
「まあ、そうだけど……私、あなたたちに借金しててお金ないのよ」
「あっそうだっけ、まあ、それほど高くない物だったら俺が買ってあげるよ」
「ちょっと、待って、もしかしてあなた、私の体とか狙ってる?」
「ブフッ! な……あのな……まあ、エミナは綺麗だと思うけど、俺には好きな子がいるから」
「誰よ、もしかしてアリュナとか……」
「いや、アリュナは好きだけど、そう言うんじゃないよ」
「だったら誰よ、もしかしてナナミとか! ちょっとそれは流石にどうかと思うわよ!」
「いや、今は離れ離れになってるんだ……どこにいるかもわからないし……ちゃんと好きだって言ってもいないから、向こうは俺のことなんて何も思ってないと思うけど……」
そうだよな……白雪結衣にとって、俺はただのクラスメイトなんだよな……あのまま修学旅行の最終日に、俺が告白したらどうなってたんだろ……
「そっか……あのさ、勇太、いつか会えるよその子と……そうしたらちゃんと告白しなさいよ」
ちょっと悲しい表情をしたのを気にしたのか、エミナは優しくそう言ってくれた。
「それじゃ、遠慮なく勇太のお金で買い物させて貰おうかな、ほら、行きましょう」
エミナの表情が明るくなったのはいいが、ちょっと財布の中身が心配になってしまった。
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