第75話 失意の中で/結衣
◇
エミナが死んだ事実を私はまだ受け入れることができなかった……帝都に戻っても何をするわけでもなく部屋に閉じこもる日が続いた。
「無双鉄騎団……」
獣王傭兵団の団長から聞いた傭兵団の名を口にする、それがエミナの仇……しかし、その報告を軍にしたのだが、無名の傭兵団なのか全く情報がなかった。
獣王傭兵団を殲滅したことにより、エミナの仇はすでに討てたとの認識の軍は動くことはないようだけど、私は絶対に忘れない。個人で動いても必ず無双鉄騎団を追い詰めると心に決めていた。
「結衣様、皇帝陛下がお呼びでございます、すぐに謁見室へお越しください」
ある日、イーオさんが訪ねてきてそう言ってきた。
いつまでも部屋に閉じこもっていたから怒られるのかな……そんな心配をしながら私は謁見室へ向かった。
「結衣様、以前、お願いされていた奴隷商人に売られたご友人の消息ですが……」
謁見室までの道すがらイーオさんがそう話をしてきた。
「勇太くんが見つかったんですか!」
「いえ……まだ発見までにはいったってないのですが、足取りが少し掴めてきまして……」
「どこにいるんですか!」
「奴隷商人の元から逃げ出したご友人は、奴隷商船で少し働いた後、ルダワンと言う小国に入った後、何かのトラブルでルダワン軍と問題を起こしたようです」
「軍とトラブル……大丈夫なんですか!」
「それがまだ不明でして……今、情報収集の為に特殊部隊をルダワンに向かわせていますので、今しばらくお待ちください」
ああ……勇太くん……私……今、あなたが側にいてくれたら……この悲しい気持ちが少しは癒されるのに……
「最近、エミナのことで塞ぎ込んでいると聞いたが少しは落ち着いたのか」
皇帝は怒る為に私を呼んだわけではないみたいで、優しくそう声をかけてくれた。
「正直、まだ立ち直ったとは言えないのですが、少しだけ落ち着きは取り戻したと思います」
「そうか、まあ、無理をせず休めば良い──そうじゃ、部屋にいると気分も晴まい、任務と言うほど大層なものではないが、昔の書庫から面白い文献が出てきてのう……伝説の大賢者が眠る祠がディアーブルの森深くにあると記されていたのだが、その真意を確かめる調査隊を送ろうと思うのじゃが、どうだ、結衣もそれに参加してみぬか」
「伝説の大賢者……」
「そうじゃ、ラフシャルと言う名の大賢者で、嘘か誠か、魔導機を最初に作った人物だそうじゃ」
「確かに部屋にいると嫌なことばかり考えてしまいます、その調査隊への参加、お願いできますか」
「うんうん、それがいいじゃろう、イーオに段取りを任せておるので後は彼奴から聞くがよい」
「はい。お心遣いありがとうございます」
そう言って私は謁見室を後にした。
「結衣様、大賢者の祠の捜索への参加、ありがとうございます」
「いえ、気分転換ですから……それより、調査隊のメンバーはもう決まっているのですか」
「はい、3名の学者、12名のライダーと20名のメカニック、それに衛兵が50名ほど、すでに準備を進めています」
「思ったより大規模ですね」
「ディアーブルは怖い伝承が残る地ですから、小規模の調査隊では皆怖がって行きたがりませんので」
「怖い伝承とはなんですか」
「昔、あそこには巨獣の住処があり、数千、数万の群れとなり暴れ回っていたそうです。巨獣は今では絶滅したと言われているので、生き残っているとは思えませんけどね」
巨獣とはどんなものか想像できなかったけど、魔導機があればどんな敵にも恐れる必要はないだろうと考えていた。
調査隊のライダーは、10名のハイランダーと2人のダブルハイランダーと精鋭で構成されていた。私を含めると13名のハイランダー以上の戦力で、小国であれば制圧できるほどだとイーオさんは言っている。
「トリプルハイランダーの結衣ね、私はメアリーだよ、母国はアメリカ合衆国、あなたはユウトと同じ日本出身なんでしょう」
「あっはい、そうです」
そうか、別に転移者が日本だけとは限らないんだ。
「おいおい、地球人同士だけで仲良くするなよ、俺はエンリケ、よろしくな結衣」
「よろしくお願いします」
調査隊の顔合わせで、ダブルハイランダーの二人は気さくに話しかけてくれたが、ハイランダーの十人のライダーたちは堅い挨拶をしてくるだけで打ち解けた感じがしない。どうもエリシアではハイランダーとダブルハイランダーの間には大きな身分の差があるように感じる……数十名しかいないダブルハイランダーに対して、ハイランダーは数百名いると聞いている、その数の差がそうさせているのだろうか……
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