第74話 ホロメル公爵領へ

「それではよろしく頼みましたわよ」


「そっちもちゃんとやれよ、ホロメル公爵を口説き落としても他の公爵二人の票が取れませんでした、なんてなったら元も子もないからな」


「わかってますわよ、それは私に任せてください」


弁護人としての戦いに勝利して、気持ちよくホロメル公爵領へと向かう──戦いの後に御影が敗北の処分が怖いと言っていたが、リンネカルロの話ではこの国でもハイランダーやハーフレーダーは貴重な人材のようで、いくらムスヒムでも、彼らに大きな処分は与えないだろうと言ってくれて安心した。



ホロメル公爵領にはアーサーの案内で向かうのだが、そのアーサーは嫌々感満載で不貞腐れている。


「ほらアーサー飯ができたぞ、そんなに落ち込んでいないでこっちきて一緒に食べろよ」


「ぼ……僕はいい……食欲がない……」


「お前、リンネカルロと一緒の時と、全然キャラが違うな……」

「リンネカルロ様がいないと僕は何もできないんだ……いいから放っておいてくれよ」


「甘ったれんじゃねえよ! この任務は誰の為だ! 俺たちの為か? 違うだろ、お前の大事なリンネカルロ様の為じゃねえのか! しっかりしろ! ちゃんと仕事をしてリンネカルロに褒めてもらえ!」


ジャンがアーサーの襟を掴んでユサユサ揺すりながらそう熱弁すると、アーサーの目の色が変わる。


「そ……そうか、この任務をちゃんとやり遂げればリンネカルロ様が僕を褒めてくれるってことなんだな……そうだ、そして専属騎士に任命してくれるはずだなんだ、よし頑張るぞ!」


単純な奴だな……



「それにしてもよ、お前とリンネカルロの関係ってなんなんだ?」


「ぼふぅはむぅ、はぅっ、んぐっ……むむ……僕とリンネカルロ様は強い絆で結ばれているのだ」

アーサーは急にジャンにそう聞かれて、慌てて食べ物を飲み込むとそう答えた。


「いや、そんなことじゃなくてよ、お前の正式な立場ってなんなんだ」

「僕はリクルメル伯爵家の次男で騎士見習いだ」

「騎士見習い? 半人前ってことだな」


「失礼な! 僕はこう見えても騎士学校ではトップの成績だったし、公職に入ればすぐに騎士になれた逸材だぞ」


「ほほう、それがどうしてまだ騎士にもなれてないんだ」

「仕方ないだろ、リンネカルロ様が認めてくれないんだから」


「すぐに騎士になれる逸材が、王族付きに拘ってフラフラしてるってことだな」

「違う! 王族付きに拘ってるのではない! リンネカルロ様付きになりたいのだ!」


「あの非常識姫様のどこがそんなにいいんだ、ありゃルーディア値とプライドが高いだけの世間知らずだろ」


「貴様にはあの可憐な美しさ、清く正しい心と奥ゆかしさがわからんのか!」


「わかんねえよ! それに奥ゆかしさなんてものは絶対ないと思うぞ」


「ふんっ、なんとも見る目のない奴だな」


「奥ゆかしさはどうかわからないけど、リンネカルロは本当は優しくていい子だと思うよ、ちょっと負けず嫌いがアレだけど……」


俺がそう言うと、アーサーが嬉しそうに同意する。


「そうなのだよ、リンネカルロ様はお優しいのだ、たまに僕に余ったお菓子を分けてくれる時があるし、いらなくなった書物もくれる時があるんだ」


そんなレベルの優しさの話はしてないんだけどな……



目的地であるホロメル公爵の領地には二日ほどで到着した。その頃にはアーサーは随分俺たちに馴染み、特にファルマと話が合うのか、よく魔導機の話を二人でするようになっていた。


「やっぱり最強の魔導機はユウトのアジュラだと思う」


「確かにアジュラが反則級のスペックなのは認める、だけどリンネカルロ様のオーディンも攻撃力だけなら負けてない!」


「そうだけど、総合力ではアジュラには勝てないよ」

「いや、リンネカルロ様は──……」


魔導機の話からいつの間にかリンネカルロ様話になるのは変わらないが、アーサーが打ち解けるのはいいことだと思う。


「俺のアルレオはどうなんだ?」

アルレオの性能について前から少し気になってたので話を振ってみた。


「勇太のアルレオは正直よくわからないんだよね……ライザも言ってたけどスペックだけ見たら並の魔導機にしか見えないし……」


「そうだな、どう見てもあの機体は名機とは言いがたい、どうしてあの機体でリンネカルロ様に勝った……いや、引き分けたのか理解に苦しむところだ」


「そもそも魔導機の性能って何で決まるんだ」


「一番はルーディアコア、次にエレメンタルライン、そしてインボーン、外骨格の順だと思う、まあ、九割はルーディアコアで決まるけどね」


「ルーディアコアってのがよくわからないんだけど、なんなんだ?」

「実を言うと誰も知らないの、構造も原理も何もわからない謎の部品よ、ただ使い方だけはなんとかわかるから使ってるってだけなのよ」


「原理は分からなくても電池は使えるようなもんか……」


「ルーディアコア以外の魔導機の部品は今の技術でも修復可能だけど、ルーディアコアは一度壊れたら二度と元には戻せないの、だからルーディアコアを破壊されたら魔導機の死を意味する……まあ、ほとんどの場合、ルーディアコアが破壊される前に魔導機自体が行動不能になるんだけどね」


確かに魔導機って意外に脆いイメージがある、頭部吹き飛ばしただけでプシュプシュいって止まるからな……

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