第77話 民の人気

「ちょっと、最近この辺りを荒らしている野盗について聞きたいんだけど……」


生活用の井戸水の周りで、ヒソヒソと小さな声で話をしていた奥様方に、そう話しかけたのだが、なぜか何も答えないでバラバラと何処かへ去っていく奥様方……ここにくるまでに何度も同じような光景に出くわし、まだなんの情報も得ることができていなかった。買い物で入ったお店では露骨に嫌な顔をされたし、どうも野盗の話をするのをこの街の人たちは嫌がっているようにも見える。


「おかしいわね、野盗に困っているはずなのに市民は皆、非協力的……あの反応だと何か知ってるけど話す気がないって感じね」


エミナが言うように、野盗に触れて欲しくないって感じだろうか、それどころか俺たちのことをよく思ってないって雰囲気が伝わってくる。


「おい、野盗について聞きたいのか」


そう声をかけてきたのはガラの悪そうな三人組であった。


「そうだけど、情報があるのか?」

「ああ……いい話を聞かせてやるよ、ちょっとここでは話せないからその裏路地に一緒に来てくれ」


「勇太、ちょっとこいつら怪しくない?」

エミナが小さな声でそう警告する。


「確かに怪しいけど、このままだとなんの情報も得られないしな……」

「わかったわ、なら話は聞くのはいいけど油断しないで」

俺はわかったとエミナに答えて、その三人組と一緒に裏路地へと向かった。


路地裏に来ると、三人組の態度が急変した。


「おい! 野盗について調べてるみたいだな、余計なことしてんじゃねえぞ!」


三人は全員ナイフを持っている──


「そう言ってくるってことは貴方たちは野盗と知り合いか何か?」

サッと俺の前にでたエミナが、腰に付けた剣のつかに手をやり、そう聞き返した。


「そ……そんなの関係ねえだろ! 言うことを聞かねえなら痛い目に合うぜ」


男がそう言った瞬間、エミナは剣を抜いて一瞬の間に三人のナイフを弾き飛ばしていた──さすがは元軍人さんだ。


「くっ……よくもやりやがったな!」


「いいから、質問に答えなさい、貴方たちは野盗の仲間なの?」


「チッ……違う、野盗じゃねえが、彼らに恩義を感じてるもんだ! あいつらは領主から奪った金や食料を分けてくれてんだよ! 高い税率で俺たちを苦しめる非道な領主より、俺たちには必要な連中なんだ!」


なるほど、どうやら野盗たちは奪った金や食料を民に分け与えているようで、あの悪そうな領主よりよほど市民に人気があるようだ。


「どんな理由があっても人の物を奪っていいわけないでしょう、いいから知ってることを言いなさい!」


剣を喉元に突きつけられて、男は震えながらこう答える。


「お……俺たちは何も知らねえんだよ……野盗たちは前触れもなくやってきて、金や食料を配ってすぐに何処かへいっちまうからよ」


「どこから来るのかもわからないの?」

「知らねえよ! 噂じゃ、デナ山の方にアジトがあるって話だけどよ」


「おい! 何喋ってんだよ!」

「仕方ねえだろ! この姉ちゃんの目、怖ええんだよ」


「他に情報はないの? 例えば野盗の規模とか、人数はどれくらいとか、魔導機は何機所有しているのとか知ってることを言いなさい!」


「本当に何も知らねんだよ、勘弁してくれよ!」


「エミナ、彼らは多分本当に知らなそうだ、その辺でいいんじゃないか」


そう俺が言うと、エミナは剣を収めた。


もうすぐ夕方なので、その男たちはそのまま放置して俺たちはアリュナたちと合流場所へと戻ることにした。



合流地点にはすでにアーサーとファルマが戻っていたので、俺はすぐに収穫について聞いた。


「どうだったアーサー、情報はあったか?」

「うむ、かなり聞き込みをしたが、なぜか民が野盗の話をしたがらないでな、結局収穫は0だ」


「そうか、こっちも同じ状況で情報らしい情報は聞けなかったよ、アリュナやジャンが何か情報を持って帰ってきてくれるといいけど」


そう言っていると、アリュナが渋い顔をして戻ってきた。


「アリュナ、どうだった?」


「どうもこうないね、この街の連中は野盗のことになると全く話さなくなる、それどころか野盗を探っている私らが悪者みたいな扱いされたよ」


「やっぱりみんなそうか……」

「これじゃジャンの方も期待できないわね」


「おう、俺の何が期待できないって」


そう言ってジャンとロルゴが現れる。


「ジャン、情報どうだった?」


「バッチリ掴んできたぜ、アジトの場所や規模、敵のリーダーの情報まで持ってきてやったぜ」


この返答にはアリュナもエミナも驚いている。

「あの街の雰囲気でどうやってそんなに情報をとってきたんだよ」


俺がそう聞くと、ジャンはロルゴを親指で指してこう言う。

「こいつを使ったんだよ」


「ロルゴを使ったって……ロルゴ、何したんだ?」

「おで……ジャンに言われて、ただ指をゴキゴキ鳴らして立ってただけ……何もしてない……」


ロルゴが無言で指を鳴らす姿を想像する……ロルゴのことを知っている俺たちなら何も思わないかもしれないけど、知らない人からしたら熊のような風貌の大男に何をされるのか恐怖しか感じないかもしれない……ジャンはやっぱり抜かりないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る