第70話 王族の義務

「とりあえず、依頼料を前金で1億、それと未払いの飲食代と魔導機の修理費用ですわ、ありがたく受け取りなさい」


リンネカルロがそう言いながらお金の入った大きな袋をジャンに渡した。


「おっ、ちゃんと払うとは偉いぞリンネカルロ」

「当たり前ですわ、私に二言はございません」

いや二言だらけだったから心配だったんだけど……


「姉さん、僕に彼らを紹介してくれるかい」

リンネカルロがジャンに渡したお金を持ってきた青年が、リンネカルロの服を引っ張りながらお願いする。確か彼は会議で王子二人を止めてくれた人物だったな……


「あっ、そうですわね、この者たちは傭兵の無双鉄騎団の勇太にジャンにアリュナよ、そしてこちらは私の可愛い弟で王太子のユーディンですわ」


「そんな言い方恥ずかしいからやめてよ、姉さん」

「どうして恥ずかしがるのですか、本当のことですわ」


「ちょっと気になったんだけどよ、このお金ってそのユーディンが持ってきたよな、もしかしてリンネカルロの金じゃねえのか?」


「はい、それは姉さんに言われて僕が用意しました」


「ははん……おいリンネカルロ、お前金持ってねえな」

「……いえ、たまたま持ち合わせがなかったからユーディンに建て替えて貰っただけですわ」


「家に帰ってきてまで持ち合わせが無いってありえねえだろ、正直に言ってみろ、金、ねえんだろ」


「……た……確かに、今はありませんけど、すぐに来期分の王族手当が出ますから心配いりませんわ!」


「おいおい、俺たちへの報酬、大丈夫なんだろな。ムスヒムが王様になったから払えませんとか洒落にならねえぞ!」


「皆さん、その件については僕からお話をさせてください。実は姉さんがお金がないのは理由があるんです。戦死した兵の遺族に対して、毎年遺族手当を姉さん個人が支払っているんですよ、それでいつもお金なくて……」


驚いた、リンネカルロにそんなことをする一面があるなんて……


「そうなんだ……リンネカルロ、どうしてそんなことしてるんだ」


「当たり前でしょう! 王族の都合で戦わされて、それで死んで……残された遺族の面倒を見るくらいしないとおかしいじゃないですの! それが最低限、人を動かして生き死にを運命付けた王族の義務ですわ!」


ちょっと彼女のことを誤解してたかもしれないな……少なくとも人の命を大事に思っている感じは伝わってきた。


「そうだぞ、下民ども、リンネカルロ様は私利私欲の為にギャンブルで路銀を使い果たしたわけではないのだ、傭兵を雇うお金、遺族に支払うお金、困りに困って一か八かの勝負に出ただけなのだ」


アーサーがそう言う風に言うとなぜかイラッとくるのはどうしてだろうか……


「たく……まあ、こうして前金も貰ったから信じるけどよ、どんなことをしてもちゃんと報酬は用意しろよな」


捨て台詞にそう言うジャンだが、リンネカルロの話に納得はしたみたいだ。



「まあ、お金の話は置いておいて、これからの作戦を考えないとね」

脱線していた話を、アリュナが正しい道へと戻した。


「そうだな、ホロメル公爵をこちらに引き込むとして、具体的にどうするかだな」


「それには私に考えがございます、今、ホロメル公爵の領地では、大量の野盗が暴れ回っていて膨大な経済的な損失を出しているそうです。その額は300億ゴルドにもなりますので、それを解決する代わりに票を貰うと言うのはどうでしょうか」


「なるほどな、金がねえから買収はできないけど、それなら俺たちにも何とかなりそうだな」


「はい、ですので、野盗の討伐は無双鉄騎団にお任せしますわ」


「はあ? 俺たちだけで野盗を討伐するのか?」

「そうですわよ、私は王宮で二人の公爵の説得をしないといけませんし、今のタイミングで私がホロメル公爵の領地に行けば、勘ぐられる恐れがありますので」


「確かにそうだけどよ……それで、野盗ってどれくらいの戦力なんだよ」

「近年、メルタニアに滅ぼされたシュトガルの残党が中心の野盗らしいので、かなり手強いらしいですわよ、ホロメル公爵の私兵では歯が立たないようですので油断できませんわ」


「ふんっ、報酬分は働けよ下民ども! 野盗如きさっさと倒してこい!」


「何言ってるのですか、アーサー、あなたも行くのですよ」

「なっ! なぜですか!」


「知らない土地で彼らだけで行動させるのは酷でしょ、あなたもお手伝いするのですわ」

「そ……そんな……」


「ヘヘヘッ、よろしく頼むぜアーサーちゃん」


ジャンに肩を抱かれてアーサーは心底嫌そうに項垂れていた。


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