第69話 王太子
「その傭兵たちはいつまでそこにいる気だ」
部屋から出るタイミングを失ったのもあるが、俺たちはリンネカルロの後ろに立って会議を傍観していた。
「私の護衛でもありますから気になさらないでください」
どうやらリンネカルロは俺たちにこの会議の様子を見せたいのか、そう言い訳してこの状況を保守した。
「ふっ、王族の護衛の同伴はどのような状況でも認められているが、せめて騎士か正規兵にしてもらいたいものだな」
王族の護衛というのはかなり存在が保証されているようで、傭兵の俺たちでもこの場にいることが容認されたようだ。
「それでは、今回の議題である王位継承について話を進めさせていただきます」
ブロア宰相がそう言葉を言うと、リンネカルロがすぐに発言した。
「王位継承についてなんて、話し合う必要があるのかしら、もう王太子も指名されていますし、このまま王太子ユーディンが王位を継げばいいと思いますわ」
「ふっ、いくら父王が指名したのがユーディンだったとしても、それは病床での朦朧とした状態での言葉だ、それが本当に父王の本心など、ありえぬことだ!」
「なぜありえませんの?」
「第一王子は俺だ! 俺を王太子に指名しないなどありえぬだろ! こんな何もできない第三王子のユーディンを指名するなど理解できぬ!」
「それはお父様に人を見る目があっただけだと思いますけどね」
「何だとリンネカルロ! 俺がユーディンに劣っているとでも言いたいのか!」
「そう捉えていただいて結構です」
「す……少しばかりルーディア値が高いからといっていい気になりおって……」
兄妹の言い争いを止めるように、ブロア宰相がこう提案した。
「それでは、こうしてはどうでしょうか、王太子、第一王子のどちらが王位を継ぐか、投票決議で決めるのはいかがですかな」
ブロア宰相の言葉にリンネカルロが強く反応する。
「反対しますわ! 王の意思は絶対です、王太子が王になるべきです!」
「その王の意志が疑わしいって言ってるんだ! 俺は投票決議に賛成するぞ」
ムスヒムはよほど王になりたいのか自分でその案に賛同する。
「俺も賛成だ、王に相応しいのはムスヒムだ」
ビルデロもムスヒムに続いて賛成を主張した。
「まあ、まあ、お二人とも、それではここに集まっている者で、投票決議の是非を問う投票をいたしましょう、王位の投票決議に賛成の者は挙手をお願いします」
ブロア宰相がそう言うと、その場にいるほとんどの者が手を挙げた。
「それでは、王位継承は王太子と第一王子の投票決議にて決めると言うことに決まりました」
リンネカルロは凄く険しい表情をするが、それ以上、何も言わなかった……
投票決議は10日後に行われることが決まり、投票に参加するのは五人の公爵と、当事者を除く、成人している王族四人によって執り行われることが決まった。
「予想通りの展開ですわ、このままではムスヒムが王になってしまいます」
「でも、さっきの話だと、ちゃんと投票で決めるんだろ。絶対ムスヒムが王になるってわけじゃないと思うけど」
「バカだな勇太は、国の偉いさんの投票なんてな、派閥みたいなのがすでにあってやる前から大抵は決まっているようなもんなんだよ」
「ジャンの言う通りです、投票の権利のある王族四人のうち、第二王子のビルデロと、第二王女のリンディルはムスヒムの言いなりですから間違いなくムスヒム票になります、そして五人の公爵ですが、宰相のブロムと、ムスヒムの義理の父であるカロン公爵、それとムスヒムと商売で利害関係にあるホロメル公爵はムスヒム票になると予想されますわ」
「もうそれで五票になるな、全部で九票だろ? すでに勝ち目なんじゃないか」
俺がそう言うと、ジャンは全てお見通しと言った感じで……
「それが分かってたから向こうはそんな投票になるようにしたんだろうよ」
ジャンの言葉はリンネカルロやアリュナも思っていることのようで、その場の空気が鈍る。
「何か考えがあるんだろ、リンネカルロ」
アリュナの質問にリンネカルロは浮かない顔で答えた。
「正直、今の段階で、確実に王太子ユーディンに票を入れるのは私と第一王女のリヒリアだけですわ。ですが二人の公爵……レイデマルト公爵とバレルマ公爵はムスヒムをよく思っていませんので説得すれば十分、ユーディンへと票を入れてくれるはずです」
「それでも一票足らないよね」
「そうですわ、ですからどうしても一人、あちらの票をこちらに奪う必要がございます」
「第二王女か、第二王子を説得するのか?」
「いえ、あの二人はムスヒムと同類です。王族以外は虫けら、民は奴隷と思っているクズですわ。ムスヒムが王になることによって、自分たちが好き勝手できると思い込んでいますのでこちらには寝返らないでしょう」
「そうなると三人の公爵の誰かだね」
「ムスヒムの義父であるカロン公爵は論外として、幼い頃から教育係をして、ムスヒムを自分の息子のように思っているブロム宰相もまずこちらには寝返りません、なので狙うのは……」
「なるほどね、欲には欲をだね」
そこまでの話で全てを悟ったのか、アリュナはそう言う。
「そうです、利害関係だけの繋がりのホロメル公爵なら、もっと有益な条件を提示すればこちらに寝返るはずですわ」
話は分かったけど、具体的に、俺たち無双鉄騎団は何をするんだろ……ただ単に御家騒動に巻き込まれているだけのような気がしてきて不安になってしまった。
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