第71話 赤の広場

ホロメル公爵の領地へ向かう為に準備をしていたのだけど、王宮近くの広場の沢山の人集りに目が止まる──気になったのでリンネカルロに聞いたのだけど……


「リンネカルロ、あれは何してるんだ」

「……あまり説明するのも嫌ですけど、公開裁判ですわ」


「どうして裁判を説明するのが嫌なんだ?」

「裁判とは名ばかりの公開処刑だからです、我が国の恥の一つで、ユーディンが王になれば絶対廃止になる悪習です」


「公開処刑……」


「あそこに罪状が書いてますわ、読んでみると少しはわかると思いますわ」


リンネカルロがそう言うので、ジャンが罪状を読み上げてくれた。

「なになに……この者たちは、ムスヒム第一王子に対して悪評を広めた罪で処刑とする。異議ある者は正当な主張を持ってそれを証明せよ……意味わかんねえな、正当な主張を証明するってどう言うことだ?」


「昔は論弁にてそれを証明していましたが、今はアレで証明することになっています」


リンネカルロの視線の先には魔導機が立っていた。

「おいおい、魔導機で戦って勝てってことか?」

「そう言うことです……あそこで貼り付けになっている者のほとんどは魔導機に乗ることもできない人たちばかりなのに……そんなの裁判でも何でもありませんわ」


「理由も何もかも無茶苦茶だな……魔導機で戦うのは罪に問われている本人しかダメなのか?」

「いえ、弁護人として代理で戦うことは認められていますわ」

「だったらリンネカルロがパパッと行って弁護してくればいいのに」


「私やアーサーは公平であるべき公人ですので、裁判の弁護人になることは禁止されているのですわ、そうでなければすぐに行ってあの執行人魔導機を破壊して差し上げますのに……」


「変なとこで公正さ意識しているルールがあるんだな──それで弁護人になるにはどうすればいいんだ?」


「勇太、あなたまさか弁護人になるつもりですか?」

「あの魔導機を倒すだけでいいんだろ?」


「そうですけど、弁護人は負けると同罪として処刑されるのですよ……いえ、そうですわね、貴方なら執行人に遅れを取ることもないでしょう。弁護人をお願いできますか勇太」


「王子の悪口言っただけで処刑なんて可哀想だからな、ちょっと弁護してくるよ」


信頼されているのか、理不尽な公開処刑に怒っているのか、ジャンとアリュナもそれを止めることはなかった。



俺は広場に入り執行人に近づく──執行人は広場の真ん中に台を立てて、その上で群衆に向けて大声でこう叫んでいた。


「ほら、誰か弁護する奴はいねえのか! もう少しでここにる奴らは全員縛り首になっちまうぞ! 魔導機を持ってなくても大丈夫だぞ、こちらでちゃんと用意してやるからな、ほら、遠慮しないで弁護しろよ!」


と言ってくれるので遠慮なく弁護を申し立ててみた。


「は〜い、弁護します!」


そう俺が執行人に伝えると、群衆が一斉にこちらを見た──興味津々の表情もあれば、哀れみや心配そうにする表情もある。


「本気で言ってるのかお前……弁護するってことは同じ罪を背負うってことだぞ」


「罪って……そこに吊るされた人たちがどんな罪を犯したって言うんだよ、本当のことを言っただけだろ」


「なっ! なんだと貴様! ムスヒム王子を馬鹿にするのか!」


「誰もムスヒム王子を馬鹿になんてしてないけどな、それともあんたはムスヒム王子が言われているようなことが本当のことだとでも思ってるのかな」


「くっ……いいだろ、弁護人として弁解の機会を与える! 魔導機はこちらで用事してやろうか」


「自前のがあるから必要ない」


「後悔するなよ……おい! 執行魔導機を用意しろ!」


弁護人の弁解とやらは珍しいようで周りの群衆が騒ぎ始めた。もはや大きなイベントのような盛り上がりで、ザワザワとさらに人が集まってきているよだ。


「ちょっと待て!」


執行人が魔導機の準備をしていると、王宮の方から見知った人物が現れ執行人に向けてそう言い放った。


ムスヒム第一王子か……


「これはこれはムスヒム王子、どういたしましたか」

「おい、お前が執行人としてあの弁護人と戦うのか?」

「はっ! 私はこう見えましてもルーディア値3800の中級ライダーです、あのような下民に遅れを取ることはありませんのでご安心ください!」


「ふっ、あの男と一緒にいる人物をよく見ろ」


そう言われた執行人は、俺の隣にいるリンネカルロを見て声を震わす。

「り……リンネカルロ王女……」


「あの天下十二傑の一人であるリンネカルロが側にいることを許しているライダーが、中級ライダー如きで勝てると思っているのか馬鹿者!」

「も……申し訳ございません! まさかそんな……」


「まあよい、あの弁護人と戦うライダーは俺が用意しよう」


「はっはい!」


「おい、弁護人、一つ質問するが、あの罪人全ての弁護を引き受けると言うことでよいか」


どう言う意図かわからなかったけど、誰か一人を助けるとかそんな発想はないので、すぐにこう答えた。


「そうだ、全員の弁護をする!」


「ふふふっ、良かろう、では最高の執行人を用意してやる」


そう言うと側にいた人物にゴソゴソと指示を出して、何かを準備させているようだった。

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