第52話 守れる力

魔導機を持ってくると、ジャンが何やら計測している……


「勇太、ここからここまでの間に、溝を作ってくれるか、ナナミはあっちの大きな岩を撤去してくれ、アリュナは向こうに見える窪みを平らに均して、ファルマは村の井戸を直すから一緒にこい」


そう指示をされたので、素直にそれに従って作業をした……村の井戸でもジャンがファルマに細かい指示を出して作業をさせているようだ。


ジャンの言う通りに作業を進めると、なんと、本当に水路と井戸の修理が完了してしまった。


「ジャンって土木の知識もあるのか?」

「いやよ、商人ってのは知識と経験だけが武器だからな、色んなことを勉強だけはしてたんだよ、まあ、まさか土木の知識を実際に使うことがあるとは思ってなかったけどな」


ロルゴは感動レベルで感謝しているようで、ジャンに何度も頭を下げていた。


「おで……なんて言えば……ジャン……すげー……おで……尊敬する……」


とうの領主は凄く感謝しているが、それを願い出た領民にはその結果は響いてないようだった。


「ふんっ、やっと修理してくれたのかよ、本当に使えない領主だな、今度はもっと早く対応してくれよな」


「なんだよその言い方! あんたたち感謝の言葉とかないのか!」

あまりに腹が立ったので俺は思わずそう言ってしまった。


「領主が領民の為に動くのは当たり前だ! 感謝して欲しいならもっと早く対応しろってんだ」


そう叫んだ領民に、ジャンの拳が飛んだ。


「人が自分たちの為に何かをしてくれるのを当たり前だと思うな! それがどんな立場でも一緒だ! 他人が自分の為に何かをしてくれたら感謝するってことを忘れなきゃ、変に人を恨んだり憎んだりすることもずいぶん減るんだよ! 領主が領民に何かをするのが当たり前だと! いいか、どこかの領主は領民を奴隷のように働かせ、まともに食うもんも与えず、どんどん餓死していっても、自分だけは毎日豪勢な食事をしてる……そんな領主もいるんだよ! どれだけお前らは恵まれてんだよ! こいつがお前たちを奴隷みたいにあつかったのか! ちょっと不器用なだけだろうが!」


どうしてかジャンのその言葉には強い力を感じた……


領民達もそれを感じたのかスゴスゴと何も言い返さずに村に戻って行った。


「ジャン……おで……」

「ふんっ、まあ、お前は領主に向いてねえってのは俺も思うからな、悪いことは言わねえ、王に領地を返還することも考えた方がいいかもな」


「返還てなんだ?」

「返すってことだよ」

「おで……ここ借りてるのか?」

「お前じゃないよ、お前の先祖さまだな」


「よく分からないけど……おで……領民守るって約束した……」


「守るったってな……」

「守る力ある……おで……みんなに見せたい……ちょっと一緒に来て……」


そう言ってロルゴは俺たちを何処かへ連れて行く。


それは城の地下だった……


「ここ……もう、おでしか入れない……」

そう言いながらロルゴは自分の手を光る石にかざす。


ゴゴゴ……と音を立てて大きな扉が開かれ、そこにあったのは丸みを帯びた淡い青の魔導機だった。


「魔導機……ロルゴ、これは?」

「おでの魔導機だ……これで領民を守る……」


「ちょっと待って、これって魔導機ガネーシャだよ、起動ルーディア値15000の上位ハイランダー専用機……大陸に数体しかない激レア魔導機が見れるなんて……」


ファルマがそう解説してくれた。てっ、待てよ、と言うことは……


「ロルゴ、お前ハイランダーなのか?!」


「おで……ハイランダーよく分からない……だけど……父さんはそう言ってた」


その事実はそこにいるみんなを驚かすには十分なサプライズだった。


「ハイランダーだったらもっとシャンとしろ! 領民にもっと言い返さなとダメだぞ!」


「でも……おで……」


「でもじゃない! よし、俺がちょっと鍛え直してやる、ちょっとついてこい!」

「え……おで……」


ジャンは戸惑うロルゴを連れて外へと向かった。



「あのロルゴがハイランダーとは驚いたね」


アリュナの言葉に、俺は自分の感想を述べた。


「俺はそれよりジャンが意外にお節介だってことに驚いてるけどね」

「確かにそれは私も思ったよ、領民な怒ったあの言葉も力強さを感じたし、もしかしたら実体験かもね……」

「領民を奴隷のように扱ってた領主の話がジャンの実体験だって言うのか?」

「分からないけど、そうだとすれば納得するね」


まあ、出会う前のジャンの話は聞いたことないので、もしかしたらそうかもしれないと俺も思ってしまった。

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