第51話 領主の仕事
普段と違う、あまり快適とは言えない簡易ベッドから起きると、すでにナナミとファルマが起きて、みんなの朝食を作っていた。
「珍しいな、二人が料理するなんて」
普段、俺たちの食事を作るのはジャンが多い、その珍しい行為に思わずそう聞いていた。
「いいから勇太はお皿を並べてよ、とびっきり美味しいの作ったんだから」
どうやらナナミの自信作のようで、嬉しそうにそう言ってくる。だけど、いざ食べると……
「辛っ!! ちょっと待て、ナナミ! お前、これ何入れたんだ?」
ナナミ達の料理はとんでもなく辛かった……辛いのが好きなアリュナも顔をしかめるほどで、俺も一口食べて悶絶していた。
「え! だって……ジャンがいつも使ってる赤い香辛料だよ……」
「どれくらい入れたんだ……」
「一袋……」
「馬鹿野郎! あれはな、隠し味にひとつまみだけ入れるようなもんなんだよ! 一袋なんて入れたら辛くなるの当たり前だろうが!」
「だって……ナナミ……美味しくなると思って……」
「ジャン、ナナミは良かれと思って作ってくれたんだからそんなに怒るなよ」
俺がそう言うと、ジャンもそれはわかっているよと言った感じで、席を立つと、こう言う。
「チッ……しかたねえ、俺が作り直してやるよ」
「ごめん……食材無駄にした……」
悲しそうにナナミはそう言うが……
「無駄じゃない……おで……全部食べる……」
ロルゴがそう言ってみんなが手を止めたナナミの料理を全部自分の前に持ってきた。
「ロルゴ、やめときな、この辛さは尋常じゃないよ」
辛いもの好きのアリュナがそう言うのだから間違いないと思うのだけど、ロルゴはニコニコとするだけで食べるのを止めようとしなかった。
「うん……ちょっと痛いけど……凄く美味えよ……」
そう言いながら食べるロルゴの顔は真っ赤で、汗をだらだら流している……
「ロルゴ、無理しないで」
ナナミが心配になりそう言うが、ロルゴは精一杯の笑顔を作ってこう言う。
「全然大丈夫……無理してない……」
いや、明らかに無理していると思う……でも、あれはロルゴの優しさなんだろう……
「ロルゴ、俺にも少しくれよ」
「勇太……大丈夫……おで……全部食える……」
「いいから、食べたくなったんだよ」
そう言って俺はナナミ達の料理を口に運んだ……とんでもない刺激が口に中に広がる。嘘だろ、ロルゴの奴、よくそのペースで口に運べるな……
俺の行動が伝染したのか、アリュナも自然とナナミ達の料理を口に運んだ。
「慣れてくればこのくらいの辛さも悪かないね」
そうは言ってもアリュナの額には汗が止めどなく流れていた。ナナミとファルマも責任を感じているのか辛い料理を泣きながら食べる……二人は辛いのが苦手のようで一口で動きが停止する。
「お腹空いた、食べる物ある?」
そう言ってやってきたのは一人ライドキャリアにいたライザであった。
「あるじゃない、美味しそうだね、少しもらうよ」
「あっ! ライザ! それは……」
俺が止めるより先に、ライザはナナミの激辛料理を口に運んだ。
「美味しい! 凄い美味しいね、もっと貰っていい?」
ライザが平然とナナミの激辛料理を食べる姿を俺たちは呆然と見ていた……
朝食を済ませて散歩でも行こうかと考えていたら、城の門が激しく叩かれる。
「領主さん! 出てきてくれ!」
ロルゴはその呼びかけに応えて外に出た。領民のあまりの剣幕に何があったのか気になったので俺たちも一緒に同行する。
「おで……でてきた……何かあったか……」
「何があったかじゃねえよ、田んぼの水路の整備や、村の井戸の件、話してたろ! まだ何もしてないってどう言うことだよ!」
「おで……どうすればいいか分からなくて……」
「分からないじゃねえだろ! 領主だったら領主らしく仕事しろよ! 俺たちは困ってるんだよ!」
「おで……おで……」
ロルゴは領民の要望に応えたいんだろ……だけど、本当にどうしていいのか分からないんだ。
「おい、お前たち、それくらいにしておけよ」
ロルゴを責める領民に黙っていられなくなったのか、ジャンがそう彼らに言った。
「なんだよあんた、よそ者は黙っててくれ!」
「いいから、こいつにやってもらいたい事ってのを説明しろ、俺たちが代わりにやってやるから」
「あんたらが!? ふんっ、まあやってくれるなら誰でもいいがな、まずは田んぼの水路が、前の大雨で崩れてしまってるのでそれの修復だ、それと村の井戸も崩れてしまって飲み水が確保できなくなってる、早急に対応してくれ」
それを聞いたジャンは、俺たちに向かってこう言った。
「おい、勇太、ナナミ、アリュナ、ファルマ、魔導機とってきてくれるか」
「いいけど、何するんだ?」
「聞いてなかったのか? 水路と井戸の修復だよ」
まあ、確かに魔導機なら土木作業もできそうだけど……素人ができる事なのかな……
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