第50話 優しい領主

「しかしよ、どうでもいいけど、よく食うな……」


ジャンが呆れたようにそう言う。実は友達になった記念に、ロルゴを夕食に招待したのだ。


「うめえ! おで ……こんなうめえもの食べたの久しぶりだ」


「そうか、いっぱいあるから食べていいよ」

俺がそう言うとロルゴはニコニコと表情で応えた。


「あっ! ロルゴ! それナナミの!」


「ごめん……返す……」

「口に入れたのは返さなくていいよ!」

「じゃあこっちあげる」

「もう……それはファルマのでしょう」

「そか……どうしよう……もうロルゴのない」


「ロルゴ、私のも食べていいよ」

「本当か! でも……ファルマのなくなる……おで……もっと食いてえけど……ファルマが可哀想」


「ほらよ、追加作ってきたからそんな寂しい顔すんじゃねえよ」

状況を見ていたジャンが追加で調理してきて持ってきてくれた……なんだかんだ言っても優しい奴なんだよな。


「いっぱい出てきた……ナナミ……ファルマ……一緒に食べよう!」


ロルゴが嬉しそうに二人にそう言う……なんとも微笑ましいその光景に、自然とみんなから笑いが起こった。



「ロルゴ、家は近いのか?」

俺の質問に、ロルゴはモグモグ食べながらこう答えた。


「近い……すぐそこ」

「そっか、じゃあ、後で送っていってあげるよ」

もう暗くなっているので、森を移動するのは危ないだろうとそう提案する。


「ありがとう……そうだ……おでの家……みんな招待する……何もないけど……おで……友達家に呼ぶの夢なんだ」


「じゃあ、送っていった時にお邪魔するよ」


そう言うとロルゴは嬉しそうに笑った。



驚くことに、ロルゴの家は小さいお城だった……

「ここがロルゴの家なのか?」

「そう……おでの家……」


「ロルゴ、お前何者なんだ」

「おで……ここの領主……先月からだけど……」


そうか、お父さんが先月亡くなったって言ってたから、それで家督を継いだんだ。まさかロルゴがそんな家柄なのには驚きだ。


だが、ロルゴに案内されて城に入ると、凄い違和感を感じた……どうも静かすぎる。早くにみんな寝たのかとも思ったがそんなレベルではないように思った。しかも城の中は少し荒れていて片付いてない。


「ロルゴ、この城、誰もないのか?」


「先月……おでが領主になると……城のみんなお金とか城にある物持ってどこかへいった……おで……今はここに一人で住んでる……」


どうやら城の人間達は、ロルゴが領主になると、城の金目の物を持って逃げたようだ……酷い奴らだな。


「なんだよそれ、お前はそいつらを怒らなかったのか」

ジャンらしい意見だが……


「頭悪い、おでが悪い……おで……何もできない……父さんの仕事……何もできない……だからみんな怒って出て行った……だから、おで……誰も怒らない……おで……悲しいだけ……」


なんとも嫌な話だな、ロルゴがいい奴なのを知ってしまっただけにちょっと嫌な気分になる。


確かにロルゴの言うように家には何もなかった、それくらい家財や何やら持っていかれたんだろう……あったのはロルゴが使っているベッドと、古いタンスだけだった。


「ごめん……本当に何もない……もてなし……できない……」


「気にするなって、おもてなしってのは、気持ちが大事だから、十分ロルゴの気持ちは伝わったよ」


「勇太……おで……」


「そうだ、今日はここに泊めてもらおうよ」

「そうだね、お城で泊まるっていいかも」

ナナミとファルマがそう提案する。確かにもう泊まるくらいしかすることはなさそうだ。


「でも……寝るとこ……そうだ、おでのベッド使うといい……」

自分のベッドをロルゴが提供しようとするが……


「いや、その辺の廃材とか借りていいか、ベッドくらいすぐに俺が用意してやるよ、ナナミ、ファルマ、ライドキャリアからシーツと毛布を持ってこい」


ジャンがそう言うと、ナナミとファルマはライドキャリアへと走っていく。


ジャンって意外に器用だよな……廃材をうまく使って、即席のベッドを用意した。


「ほら、ロルゴ、これでみんなで泊まれるだろ」


ジャンがそう言うと、ロルゴは嬉しそうに笑った。


「ライザもこっちに来ればいいのにね」


ナナミがそう言うように、ライザだけはライドキャリアに残っている……普段から必要がないと俺たちに絡んでこないので、ちょっと心配だ。


「あの子は一人が好きだから……もう少し仲間意識を持ってくれると嬉しいんだけどね」


アリュナもなんだかんだ言っても心配のようだ。


それからみんなでベッドに横になりながらロルゴの話を聞いた……あまり恵まれた話はなかったけど、話をしているロルゴは嬉しそうだった……

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