第48話 不穏な空気/渚
◆
テミラに到着すると、すぐに会議場である城へと入城した。
「会議には私とラネル、それと渚に出席してもらう」
「私ですか!」
「そうだ、会議のその場で自慢したいんだ」
この王様は……そう思ったがそんな平和的考えは嫌いではない。
会議は大きな円卓でおこなわれ、席が12席用意されていた。そのうちのひと席に王様が座り、私とラネルはその後ろに立って控えた。
「おかしいわね……もう会議は始まるのに半分くらいしか来ていない」
確かにラネルの言うように空席ばかりだ……
「すまない遅れてしまった」
そう言って一人が会議室に入ってきたが、それ以降は誰も来なかった。
「どう言うことですかね、4国も欠席とは」
12国が参加予定の首脳会議に参加したのは8国、それを指摘したのは初老の男性だった。
「アルパ王、欠席した4国だが……先ほど通信で東部諸国連合からの脱退の意思表明があった」
「なんですと! それはどう言うことですか! ベダ卿!」
アルパ王と呼ばれた初老の男性が驚きの声を上げる。
「どうやらルジャ帝国が関係しているようだ……こちらの切り崩しにきたようだな」
「くっ……そう言うことですか……だとすると戦争は避けられませんな」
ちょっと待ってよ……戦争を回避する為の会議じゃないの? 思いっきり不穏な感じになってるんだけど……
「脱退した4国がルジャ帝国側に付くなら、かなりこちらが不利になりそうだぞ」
「他の国と同盟を考えた方が良いかもな」
「エモウ王国はどうだ、ルジャとは仲が悪いし、こちらに味方してくれるんじゃないか」
「そうだな、エモウと同盟を結べは戦力的にはこちらが優位になるな」
「それではその方向で動こうと思うが、反対の者はいるかな」
その問いに誰も反対の意思を示さなかった。
「反対は無しということで、誰か代表してエモウとの同盟締結を行ってもらいたいが、ここはアムリア王、マジュニ殿が適任だと思うがいかがだろう」
「そうですな、アムリア王とエモウ王は確か旧知の仲だと聞いている、まさにこれ以上の適任者はいないでしょう」
王様に何か重要な仕事が降って湧いたようだ……どう答えるんだろう……
「わかりました、その役目、このマジュニがお受けしましょう」
「ちょ……ちょっとお父さん……そんな簡単に……」
ラネルが小声で抗議するが、その返事を撤回することはなかった。
結局、私の自慢をする雰囲気ではなかったようで、会議では同盟の話と、防衛の為の軍事連携の話をして終了した。
ライドキャリアに戻ると、娘の雷が父王に落ちた。
「お父さん! 何あんな重要な役目簡単に受けてるのよ!」
「し……仕方ないだろ、あの空気で断れはせんよ」
「それにエモウ王と旧知の仲って言っても悪い意味で知ってるだけでしょ! 仲悪かったってお母さんに聞いてるんだから」
「ぐっ……まあ……そうだが……あいつも私も大人になって成長していることだし、昔のことは水に流してだな……」
「それはお父さんの勝手な考えでしょう、向こうがどう思ってるかなんてわからないじゃない」
「うぐぐっ……」
どうも言い合いではラネルに分があるようで王様はタジタジになっている。
それでも最終的にはどうやってエモウ王を説得するかラネルも必死になって考えていた。なんだかんだ言っても良き娘である。
「あいつは果実が大好きだからお土産に珍しい果実を持って行こう」
「果実なんかで国の命運を託してどうするのよ、金属貿易の独占権とか、大きなお土産じゃないとダメだよ」
「そ……そうか……なら、ミウルの採掘権なんてどうだ」
「そんなのあげちゃったらうちの収入が激減しちゃうでしょ!」
「そ……そうだな……」
とりあえずラネルに任せておけば大丈夫のようだ。
アムリアに戻るより、テミラからエモウに向かう方が近いということもあり、私たちはその足でエモウ王国へと向かうことになった。
「ごめんね、渚、仕事が長引いちゃって」
「それはいいけど、本当に大丈夫? 戦争とかならないよね?」
「うん、私も戦争なんてしたくないから絶対に阻止してみせるわ」
ラネルはそう言ってくれたが、私の心の中では妙な不安と嫌な予感が溢れ出していた。
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