第46話 さよならカークス

ナナミの一撃により紫の機体の強敵は倒した。漆黒の機体には逃げられてしまったが、西は完全に無双鉄騎団によって制圧した。


戦闘後、すぐに中央へ援軍に行くつもりだったのだが、倒した敵機を確認していた俺は呻き声を聞いた。それはナナミを苦しめた紫の魔導機から聞こえたように思えた。


「ちょっと待って、何か聞こえたんだけど」

「魔導機の外部出力音ね、もしかしたら敵が生きてるのかも」


俺はアリュナのその言葉を聞いて、急いで紫の魔導機のところへ近づいた。


「おい、生きてるのか?」

自分たちで倒しておいて、その質問もおかしい話だが、いくら敵でも、倒してしまったらただの怪我人だ。生きていたら助けたい。


少しだけ呻き声が聞こえたように思える、俺は紫の機体のハッチの部分を、アルレオでこじ開けた……中には血だらけで倒れている一人の女性がいた。


俺はアルレオから降りると、すぐに女性に近づいた。

「大丈夫か!?」


だけど、女性から返事はない……口の部分に耳を近づけると、呼吸音は確認できた。


「どうしよう、生きてるみたいだけどやばそうだ」


「……勇太、そいつは敵だけど助けるつもりかい」

「敵だったのはさっきまで、今はただの怪我人だろ」

「さすが私が惚れた男だね……ライドキャリアに医療カプセルがあるからそこまで運びましょう」



なんとか間に合ったみたいで、医療カプセル内で女性の容態は安定した。


「凄いね、この医療カプセルでなんでも直せるのか?」

「物理的な怪我ならだいたい対応できるけど、なんせ旧式だからね、時間はかかるよ、この怪我だったら完治するのに十日はかかるわね……」


十日は長いけど助けられてよかった。


それから俺たちは中央に向かおうとしたが、俺たちが向かう前にカークス軍が中央のチラキア軍を撃破して、チルニの戦いはカークス勝利で終わった。



「最後に戦ったあの漆黒の機体と紫の機体、かなり強かったみたいだけど、ナナミ、よく耐えたな」

俺がそう讃えると、ナナミは首を振ってこう言った。


「本当に必死に戦ってただけで、どうやって防いでいたか覚えてないよ……ナナミ、勇太に助けられてなかったらやられたと思う」

謙遜でもなんでなく、それは事実なんだろう……本当にナナミを救えて良かった。


「それで結局、その援軍とやらは、どこの軍だったんだろな」

ジャンが何気なくそう聞くと、ファルマから答えが返ってきた。


「あの敵の魔導機……国家マークは隠していたし、機体色も変更してたから分かりにくいけど、あれはエリシア帝国の中級汎用機のルーダンクラスだったよ」


それを聞いてジャンの顔色が変わる。


「嘘だろ……マジで言ってんのかファルマ」

「うん、間違いない、エリシアの魔導機は好きだからよく知ってる」


「おいおい……確かにチラキア帝国がエリシアの属国になったって話は聞いてるけどよ、まさか属国の戦争に出張ってくるとわよ」


「あのエリシアか……カークス軍はその情報を知ってるのかな?」

アリュナもエリシア帝国を知っているようだ。俺もどこかで聞いた覚えがあるんだけど思い出せないな……


「いや、知らねえだろ、カークスの情報部は無能みたいだからな、知ってたらもっと慌ててるんじゃねえか」


「カークス軍の情報部が無能なのは同意するけどね、正確には情報部だけでなく、軍全体が無能だと思うけど」

呆れた表情からアリュナのその言葉が本音だとわかる。


「そうだね、今回もなんだかんだ言って報酬は払わない気がするし……獣王傭兵団にいいように操られてるんじゃないかな」


「おい、勇太、今回、カークスが支払いを渋ったら、もうこんな国は出るからな」


「わかってるよジャン、仏の顔も三度までって言ったろ」



そして予想通りというか、なんというか……今回のいちゃもんはさらに強引で、俺たちを呆れさせるには十分であった。


「大軍を相手に善戦する獣王傭兵団の援軍を拒否し、中央の戦いを避けて敵のいない西に逃げ、戦った振りをして敵の撃破報告だけするとは……」


その言葉に、もはやなんの感情も湧いてこない。


「それが今回の戦いの無双鉄騎団への評価ですか、司令官さん」

「そうだ、残念だが今回も無双鉄騎団には報酬は支払われん」


「わかりました、それでは契約破棄とさせてください、もうこの国の為には戦えません」


「そうか、それは残念だな、私個人は君たちを評価してたんだけどな、まあ、自由な傭兵だ、好きにするがいい」


何をどう評価していたのか……理解に苦しむ。


「へんっ、俺たちがいなくなった後、強い敵がやって来ても知らねえからな! その時に後悔しても遅いってもんだ」


ジャンはチラキアの援軍がエリシア帝国だったことを知っているのでそう言ったようだが、カークス軍の司令官には何も響いてないようだった。


「強い敵がきた時には獣王傭兵団が倒してくれるだろう、彼らは君たちと違って本当の実力があるからな」


「本当の実力ね……それじゃ、せいぜい獣王傭兵団に守ってもらうんだな」

ジャンの捨て台詞に全く動じていないのを見ると、本気で獣王傭兵団の実力を信じているようだ……もしかしたらこの司令官も被害者なのかもしれないな。



こうして、三度の戦いを経験したカークスを去ることにした……あまりいい思い出はないが、いい経験にはなったかもしれない。また、あの敵の女性は、今、医療カプセルから出すと危険だと言うことで、カークスには引き渡さず、まだこのライドキャリアにいる。


「結局、ただ働きかよ……しかもお荷物の敵のライダー付きとは……」

「まあ、実戦練習だったと思えばいいよ、敵のライダーは元気になったら解放してあげよう」


「確かに報酬はなかったけど物資の補給は受けれたから、それほど赤字ってこともなかったからな、そう考えれば最悪ってほどでもねえか……あっ、そうだ、敵のライダーってエリシア帝国の上級ライダーなんだよな、身代金とか取れねえかな」


「身代金って……なんか犯罪者ぽくて嫌だ」

「チッ……なんともいい子ちゃんだな勇太は……」

「そこが良いんじゃないの、あんたも少しは見習いなさい」

「ヘンッ!」



「さて、それより次はどこいくんだい」


アリュナがそう聞くと、ジャンはすぐにこう答えた。


「こんなに早くカークスを去るとは思ってなかったからな、まだ考えてねえ」

「じゃあ、南の小国群あたりはどうだい、あの辺なら小競り合いが多いだろうし」

「まあ、そうだな……稼ぎは少なそうだが、カークスみたいな性悪な国も少なそうだからそれもありかもな」


そんな話し合いをアリュナとジャンがをするが、俺は地理やこの世界の情勢に疎いので何も意見ができない……



アリュナとジャンの二人の意見で、俺たちは次の雇主を求めてそのまま南へと向かった──カークス共和国が滅亡したとのニュースを聞いたのは、それから5日後のことであった……──

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