第45話 消失/結衣


東の敵を一掃した私たちは、後方に待機させていた高速ライドキャリアで西に向かった。


「中央は劣勢のようね、早く西の獣王傭兵団を片付けて救援に向かわないと全滅しそうだわ」

エミナがビーコン水晶の表示を見ながらそう言う。


ライドキャリアの移動中に、水分を補給して戦いに備える。相手はうちの精鋭部隊を殲滅させた強敵だ、十分に準備をしないと……


うちの分隊が全滅させられたあたりの到着すると、私たちは魔導機に乗り込んで敵軍を探した。


「見つけたわ……でも四機しかいない……どう言うこと?」

「どうするエミナ、向こうは気がついてないようだけど、もう少し様子を見る?」


「いや、今のうちにあれを叩きましょう、1分隊は赤の魔導機、2分隊は白の魔導機、私と結衣で目立つ金色の魔導機と青の魔導機をやるわよ」


エミナの指示で部下もすぐに動き出す……私もエミナと一緒に金色の魔導機に向かった。


加速して接近していくと、向こうもこちらに気がついたようだ、すぐに反応して反撃の行動をとった。ここで私は妙な違和感を感じた……嫌な予感というか妙な感覚……まあ、気のせいだろ、今は敵に集中しないと……


金色の敵機をレイピアで貫こうとした、だけどその攻撃は盾で防がれる。


あのタイミングで攻撃を防がれたのは初めてだったので私は驚く。


私の攻撃の隙に、エミナの紫の機体、魔導機シュリアプルが金色の敵機の後ろに回り込んだ。


エミナは円月の特殊な刃を持つ剣で金色の敵機を攻撃する、だけどその攻撃も剣で弾き返される。


この敵……強い……


エミナは連続で剣撃を繰り出す、私もその攻撃に合わせてレイピアで猛撃した……だけど、金色の敵機は盾と剣で私とエミナの攻撃を防ぎ続けた。


「やはりこの敵、獣王傭兵団よ! なんて強さ……」


エミナも感嘆の声をあげている。


「結衣! 避けて!」


その声に反応して、私は上から放たれた矢に辛うじて反応した……矢はエルヴァラの肩をかすめて後ろの地面に刺さる。


「ちょっと待って、あの青い敵機……空を飛んでる!」


見るとふわふわと空を浮遊していた……飛んでいる魔導機を見るのは初めてだ。


「結衣、あの青いのがアローを撃ってくるから気をつけて」

「うん、わかった」


しかし、アローを警戒しながら金色の敵機と戦うのは至難の技であった、私とエミナの攻撃の手数は激減する。


「結衣、私が金色の動きを止めるから、その間に倒して」

「了解よ!」


エミナは金色の敵機に剣で斬りつける、それを盾で防いだ瞬間を狙っていたのか低い姿勢になると、横に回り込むような動きで移動して、一気に金色の敵機にそのまましがみ付いた。


「今よ!」


私はレイピアを構えて、敵の胴部を貫き倒そうとした……しかし、その瞬間、聞いたこともないような放出音が鳴り響くと、私のエルヴァラは強烈な衝撃を受けていた。


「えっ!」


エルヴァラの右腕が吹き飛んでいるのが見える……しかし、攻撃の正体はわからなかった……私は機体を立て直して周りを見渡した……そこで私の目に入ってきたのは、シュリアプルが金色の敵機に剣で貫かれている姿であった……


「いや〜〜!!! エミナ!!」


敵の剣が貫いているのはコックピットの位置だ……ゾッする感覚……私はエミナに呼びかける。


「エミナ! エミナ! 応答して!!」


しかし、シュリアプルからの返答はなかった……血の気が引いていく……絶望と悲しみが溢れてきて何も考えられなくなっていった……


エミナを倒した金色の敵機が私に向かってくる……右手を失い、エミナを失い……茫然とする私は動けなかった。


「結衣様!」


そう叫びながら後ろに控えていた高速ライドキャリアが金色の敵機に突撃した。金色の魔導機はそれをまともに受けて後ろに吹き飛ばされる。


「結衣様、早く搭乗してください!」


何も考えれなくなっていた私は言われるままに高速ライドキャリアに乗り込む、ライドキャリアはブオオオンと大きな音を立ててすぐに出発した──




そのまま私はチラキアの帝都まで撤退した……チルニの戦いはチラキアの完全な敗北で幕を閉じたとそこで聞いた。


それからエリシア本国にエミナの戦死と、部隊の全滅が伝わった……エリシアは上級ライダーを重んじる国である、その中でも数十人しかいないダブルハイランダーの死は皇帝を怒らすには十分な理由となった。すぐにエリシア本国から仇討ちの軍が送られて来た……


「ユウトさん……」


その軍は、大陸最強のライダーが率いる500機の魔導機軍であった。


「結衣……大丈夫かい」

「エミナが……エミナが……私の眼の前で……」


「もう大丈夫、僕が来たから……獣王傭兵団とカークス共和国には皇帝から絶対殲滅命令が下されたから捕虜も降伏も許されない、一緒にエミナの仇を討とう」


私は静かに頷いた。


金色の魔導機……私はあの姿を忘れない……

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