第43話 チルニの戦い
◇
チルニで敵の大きな軍を打ち破った私たちは、チラキア軍と合流して、カークスへの侵攻準備をしていた。
「結衣、あなたも女の子なんだから、戦場でももう少しお洒落したらどうなの」
私がダボダボした服にボサボサの髪で朝の挨拶をすると、エミナがそう言って来た。
「う……確かにそうね……でも、どうせ軍服に着替えるし、自分のライドキャリア内では楽な格好でいたいわよ」
私たち上級ライダーは特に服装について何も言われることはないけど、部下たちに示しがつかないと言う理由で私もエミナも普段は軍服に着替えていた。
「ここだって部下が出入りするんだからちゃんとしないと」
「もう、わかってるよ」
「そもそも結衣って私服、全然持ってないよね」
「そりゃ、こっちの世界に来てまだ日が経ってないし……」
「そっか……そうだ、帝都にいいお店があるんだ、帰還したら一緒に行こうか」
「えっ、本当、やった、服が欲しいとは思ってたんだ」
「だったらさっさと敵を倒して帰らないとね」
そんな話をしていると、チラキア軍から至急の連絡が入った。
「大規模な敵軍がこちらに向かっているそうです」
「大規模……その軍には獣王傭兵団は含まれているのですか」
エミナがそう尋ねると、チラキア軍の司令官は部下からきた情報を見てこう答えた。
「はい、獣王傭兵団もその軍に含まれているそうです」
「それは好都合ね……結衣、すぐに戦いの準備よ、獣王傭兵団を片付けて帝都に戻りましょう」
そう言う彼女は満面の笑みを浮かべていた。
私たちは敵軍を迎え撃つ準備をして、チルニに布陣した。
「敵軍は三方向からこちらに向かってくるようです」
チラキア軍から敵軍の動きが伝わって来た。
「三方向……獣王傭兵団はどこから来るかわかりますか」
「スパイの情報では獣王傭兵団は東から侵攻するととのことです」
「他の方向からはどれくらいの敵が来ていますか」
「中央からはカークス本軍が100機以上、西からは……これは揺動か何かでしょうか……無双鉄騎団と言う傭兵団が単独で侵攻してくるようなのですが……魔導機四機と情報が入っています」
「そう……それでは、チラキア軍は中央のカークス本軍を迎え撃ってください、我々は部隊を二つに分けて西と東の敵を叩きます」
エミナはそうチラキア軍の司令官に伝えると、部下と私にこう指示した。
「私と結衣と、分隊二つは東の獣王傭兵団を叩き潰す、残りは西の敵を倒して、その後、中央の援軍に向かいなさい」
強敵は獣王傭兵団だけだとエミナは思っているようだ……先の戦いを見る感じだと私もそう思うけど……
東側に移動して敵を待ち構えていると、100機ほどの魔導機の姿が見えて来た、あれが獣王傭兵団……情報ではかなりの強敵だと聞いている、油断しないようにしないと……
「結衣、分隊を連れて右に回って、私は左から行くわ」
「了解よ、気をつけてねエミナ」
「そちらこそね」
私は一気に加速して敵軍の中に突入した……狙い通り敵は私に集中する……そこへ部下の分隊が襲いかかる。
分隊五機の強襲で、いきなり二桁の敵機を潰す……私も揺動の的になりつつも、敵をレイピアで撃破していく──
脆い……これが獣王傭兵団……まさかこの程度なの?
私と部下の分隊で敵の半数を倒したところでエミナからも通信がくる。
「結衣、少し様子がおかしいわ、獣王傭兵団がこんなに弱いわけない……もしかしてチラキアの情報に誤りがあるかもしれない」
私も同じように思った、情報の誤り……そうなると本当の獣王傭兵団はどこに……その疑問は、西へ向かわせた部下からの通信で判明した。
「ズズ……ズ…… ば……化け物だ……なんだよこの強さは…… ズズ…… に……西の分隊は全滅! ……た……助けてくれ!! ザーザー……ズズ……」
そう言って通信は切れた……
「まさか! くっ……もっと早く気づくべきだったわね……西から攻めてくる敵が少なすぎると思ったけど……たった魔導機四機なわけないのよ……西にいるのが獣王傭兵団で間違いないわ!」
「どうする、エミナ、すぐに西に向かう?」
「今すぐに西の分隊を助けに行っても間に合わないわ、まずはここを片付けましょう」
私たちは東の敵軍を殲滅し始めた、しかし、一部の敵は劣勢だと見たのか逃亡し始めた。
「逃げたわね、まあ、いいわ、雑魚は放っておいてすぐに西に向かいましょう」
エミナの判断に私も同意した。
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